嘘だまり

それぞれの母(7)

2017年04月11日
幻の家族
翔一の母


「小雪が一歳になった頃のことだ。小雪が余りにもかわいいので、自分の子供ならもっとかわいいだろうと単純に思った。でも春清とは他人のままだ。思い募った私は、家族の事を何も知らない遠くの友人を訪ね、自分の子供が欲しい、迷惑はかけないから一夜だけでも相手をしてくれそうな、身元の確かな男はいないかって」
「そしたら二日後に、『身元の詮索をしない。二人だけでいる時は一言も話さない。一夜だけで次の機会はない。この件で問題が起きても責任を問わない。それで良ければ心当たりがある』と、返事が来た。私はすぐに承知の返事をした」
「約束の日、指定された場所へと向かった。その日はちょうど春清も出かけるところで、小雪を近所に預けてしまえば、春清にやましいところを見られずに出かけることができた」
 母は小さく息を継ぐ。翔一自身の出生に関わる話しだけに、翔一はいつしか母の話に引き込まれて乳児の存在が遠のいた。
「約束した場所にはすでに男の来ている気配がある。隣の部屋の薄明りで身に着けた物をすべて脱ぎ去り、男のいる明りのない部屋に入って行くと、男はすでに何も身につけていないようで待ちかねたように触れてきた」
「その時だ、一言も話さないという約束なのに、男は興奮したのか上ずり掠れた声で、『本当にいいのか? 』と声を出した。掠れていてもその声に聞きおぼえがある」
「ハッとした私の様子で、男はしでかした不始末に気づき動揺したが、約束は何とか果たした。すぐに事が終り、男は手探りで衣服を身につけ外へ出ていった。私は窓のカーテンを僅かに開けて、街燈の下を男が通るまで辛抱強く待った。明りに見えた男は思った通りに……」
「思った通りに? 」
 話しの途中で聞きなれた声が家の外から割り込んだ。
「今晩は、おや、どうしました? 」
「いや、ちょっと……」
 父が突然の出張から帰ったのかもしれないと翔一は思ったが、その声を聞いた母は唐突に立ち上がり、二階へと駆け上がった。翔一は思いもしない母の行動に、乳児が危ないと気付く。
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素姓乱雑
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