嘘だまり

それぞれの母(2)

2017年03月23日
幻の家族
小雪の母


 その日、翔一は誘われた友達と遊びに夢中になり、気がついた時には校庭にある時計の針が、小雪と決めていた位置よりも大きく進んでいた。翔一はあわてて待ち合わせの場所に行こうとしたが、小雪も翔一を探していたようで、約束の場所から離れた校庭の隅に姿が見える。
「姉ちゃん!」
 人声が飛び交う広い校庭を挟んで呼びかけても声は届きそうにない。翔一は大勢がいる校庭を回り込んで小雪に駆け寄ろうとした。ところが先に、小雪に近づく小母さんがいる。先を越された翔一は誰だろうという珍しさに悪戯いたずら心も手伝い、そっと二人に近づき物陰に隠れた。
「小雪ちゃんけ」
「はい。小母さん……、もしかしたらの!」
 小母さんと小雪の声が聞こえる。小雪は小母さんに心当たりがあるようだ。
 二人を見比べた翔一は小母さんと小雪は肌の白さや横顔が驚くほどよく似ていると思った。
 今まで親から、そのような近しい親戚があると聞いていない。母は口癖のように金持ちの叔父がいたと自慢したが、その叔父もすでに亡く、父には早くから親戚がなかった。
 小母さんを見た今は小雪と母は似ていないと気付く。姉・小雪の見てはならない一面を垣間見たようで、翔一は気持ちが滅入った。
「少し話をしたいがやちゃ」
 翔一は「~ちゃ」という語尾の付く小母さんの話しに戸惑った。小雪も最初は小母さんの話しに聞き慣れない素振りを見せたが、小母さんを見つめて頷いた後、振り返って、近くにいた翔一の友達に聞いた。
「翔ちゃんどこかで見なかった?」
「翔ちゃんなら先に帰ったよ」
 友達は口をそろえて言う。
「ありがとう」
 小雪は礼を言い、小母さんに向き直って、
「弟が家で待っているので、少しの時間なら」
 横並びになって歩き出した小雪と小母さんに遅れて、 翔一は突き動かされるように後をつけた。小母さんの話しは方言まじりで聞き取りにくいが、「この先に越してきた」「通学する姿を見ている」「帰りに寄って顔を見せてほしい」などと話しかけるのが分かる。二人は学校から程近い一軒家で立ち止まり、玄関の戸を開けた小母さんは小雪に中へ入るように勧めた。
 誘われた小雪は小母さんに付いて玄関に入る。
 翔一は二人の姿が家の中に入るのを見届けて忍び足で戸口まで行き、見上げると、僅かに翔一の手が届かない高さの所に、手作りの表札が取り付けてある。そのころ習ったばかりの文字で 、「・・美雪」 と書いてあった。
 小母さんが「部屋に上がるように」と勧め、「弟が待っているから」と断る小雪の声が聞こえる。翔一が僅かに開いた戸の隙間から覗き込むと二人の横顔が見えた。
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素姓乱雑
記事作成者: 素姓乱雑
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