嘘だまり

ある店で (その4)

2017年02月17日
ある店で

どれだけ眠っただろう、奈津夫は気配で目を覚ました。いつもと違った衣服を身に着ける店主が枕元にいた。
「久しぶりだな、服を変えたんだ」
「ええそうよ、選んでもらったの」
「誰に? 他に好きな人でもできたのか!」
「覚えていないの、先日、店を訪れたでしょう、その時にあなたが」
「そんな……、俺は服を選んだ覚えなんかないぞ。そういえば、ベルトの交換はしたが」
「服よりもあなたの知りたいことは、『どうしたら私と馴染めるだろうか』。そうじゃなかったの?」
「その通りだが……」
 ここで言い争いをして二度と会えないようになってはつまらない、と思った奈津夫は、あっさりと引き下がった。店主はいつものように、奈津夫のそばに来て陰茎を握る。先ほどの諍いも忘れ、奈津夫はすでに店主の虜。
「約束が有るの」

店主は奈津夫の耳元である事を囁き、約束させた。
 奈津夫はうなずく。

時計を扱うからか、店主の秘密の園は少々油の匂いがするが、歯車の軸を受けるルビーのような光沢と滑らかさがある。いつもより丁寧に握った奈津夫の陰茎は鋼のように硬い。
「ウッ、俺はもう待てない」
「私もよ、早く一緒になって」
 同時に声を上げ、確かめるように一体となった。店主のルビーの輝きをした秘密の園は奈津夫を確実に受け止め、どこにも違和感がない。当たり前だ、店主は毎夜、奈津夫の陰茎を握り、相性を確かめたのだ。
 奈津夫に、憧れた店主と一体になれた喜びがある。約束通り、これからの奈津夫はぶれない歯車の一つとなり、規則正しく滑らかな動きを伝えるに違いなかった。
「これでまた、新しい部品が一つ増えた」

翌日、時計屋に新たな腕時計が増えた。その腕時計もまた、店主に魅入られた男を連れてくる。店主は新たな時計をそっと撫でてにやりと笑い、展示棚の中の、かって奈津夫が付けた腕時計と並べて置いた。

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素姓乱雑
この記事を書いた人: 素姓乱雑
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