嘘だまり

ある街で (その4)

2017年02月05日
ある街で

治夫は思いがけなく、快感の一時を過ごした。店主はどのようなすべを心得ているのか、ただ握っただけなのに痛みに似た衝撃が陰茎から脳髄に突き抜けた。治夫の精を根こそぎ奪うかのように、ひと際大きい快感が治夫を襲う。

放出した陰茎は元の大きさに戻った。いや、放出する前よりも縮んで見えた。
 ありったけの精を出して呆けたようになった治夫は、店主のされるままだ。
 店主は散髪屋だけに毛髪を扱うのは手慣れたもの。治夫の陰部にシャボンを塗り、ニヤリとして仕事に掛かった。
 約束を実行した後の治夫の股間に違和感がある。
 何だか頼りない気もする。寒々しいと言っていいだろう、陰茎のまわりを風が吹き抜ける気がした。
 下着が直に当たって痛い。そう、有るべきところに陰毛がないのだ。
 店主の言う約束とは、「陰毛を貰い受ける」というものだった。しばらくは陰毛が揃わず、恥ずかしくて人前で裸を晒すことはできないが、散髪屋での思いがけない快感の一時を想えばさいな問題だ。

その後、治夫は陰毛が伸びるのを待ったがいつまで経っても生えてこない。困った治夫は訳を尋ねようと、再び「ある街」を訪れた。
 だがどれだけ探しても目指した散髪屋は見当たらない。消沈した治夫はいろいろ手を尽くしたが、股間に黒々とした陰毛はついに戻ることは無かった。そう、散髪屋は永遠に陰毛を貰い受けて治夫の前から姿を消したのである。


「そこのあなた、若い女の散髪屋で頭髪を増毛してもらったって? 何、独特のねじれが有る? だとしたら、誰かが無くした陰毛ではないのか」
「毛ッ、そんな馬鹿な」
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素姓乱雑
記事作成者: 素姓乱雑
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