嘘だまり

ある街で (その1)

2017年01月30日
ある街で

治夫がある街に出かけたのは気まぐれでしかなかった。

通りを歩いていると路地から少し入った所に散髪屋が見える。古くさい店だ。こんな場所で、しかも寂れた店に客が来るのだろうか?
 窓越しに店の中を見てみると案の定、誰もいない。だが意外にも、店主は女性で若い。  店主に惹かれた治夫はドアを開けて中に入った。
「いらっしゃいませ」と言う声。
 椅子を示されて座り、好みのスタイルを聞かれ、さっそく散髪が始まった。
 女性の店主はしなやかな指で手際よく髪を整え、時折、ツボを心得ているのか指圧を加える。それがたまらないほど心地が良くて、治夫は夢の中をしばしさまよった。

店主は口数が少ないのかあまりしゃべらなかった。ただ、終わりごろになって、治夫の耳元に口を近づけると、
「上ばかり髪を整えても駄目よ、みんな肝心な所の手入れを怠っているのだから」
 夢心地にいて耳元でささやかれれば気持ちが昂る。治夫はある部分に血液が集中して熱くなるのがのがわかった。
「肝心な所って?」
 昂りすぎたのか、治夫の声が裏返っている。
「それはね……」
 店主は少し間をおき、
「滅多に他人に見られない所よ、だからみんな気付かない。毛髪が生えている部分はすべて手入れが必要なのに」
 店主は治夫の顔と並ぶ位置まで屈み、
「彼女とデートして、その時になって慌てないでも済むわよ。今日はお客があなただけだし予定もないから、手入れの方法もついでに教えてあげる」
 店主は手入れが必要だという部分を示してそっと手を添えた。強くはない触れかただが絶妙で、治夫は布地の下の陰毛をやさしく撫でられた心地がした。
「でも、プライベートな部分でしょう、ここでとはいかないわ。それに、あなただって困るでしょ」
 微妙な部分の話なのに、若い女性の店主は気にもせず笑顔で言う。魅力的で治夫の心をとらえて離さない。

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素姓乱雑
記事作成者: 素姓乱雑
Address:富山県南砺市城端