嘘だまり

かいこ(26)

2017年01月02日
かいこ

物事の道理が判断できる年齢の翔梧が過去へ遡ったのだから、唐突に「蚕子と夫婦になる」と言われても右往左往はしない。混乱をきたしたのは、「あの男=翔一」の証しがどれだけ有ろうと腑に落ちないものがあるからだ。
 辺りを包む白い世界。道にも薄く雪が積もり、夢で見た光景が翔梧の目の前に広がっていた。
 夢のように、過去にいる今の年齢にふさわしい振る舞いをすれば、腑に落ちないものが「何か」を確かめられるかもしれない。そう思った翔梧は白い道へ降り立ち、翔一が微笑みながら見ている前で、飛び回ってみた。
「ほら兄さん、足跡がこんなにくっきりと」
 このあと夢で見たように、振り返って翔一の笑顔と道に残った靴底の模様を交互に見るつもりだった。だが、翔一の背後に見え隠れする「あの男」の姿に気付いた翔梧は驚きを隠せなかった。
「どうした翔梧? 何かあったか」
 翔梧は無言で「あの男」を睨みつけたが、背後の存在に気付かない翔一は、「蚕子と夫婦になる」と言ったことが翔梧の気に障ったものと勘違いしたようだ。
「お前はまだ子供だな、はしゃいだと思ったら今度は癇癪か。そんなに俺が、蚕子と一緒になるのが否なのか?」
「そうじゃない、兄さんの背後に……」
   翔梧が言いきらないうちに、「あの男」は桑の葉のごとくバリバリと翔一を食んだ。
 しだいに姿をあらわにする「あの男」に対し、やがて食われて残滓となった翔一は、風もないのに雪の花に紛れて「あっ!」という間もなく舞い散った。

関連記事
素姓乱雑
この記事を書いた人: 素姓乱雑
Address:富山県南砺市城端