嘘だまり

かいこ(25)

2016年12月30日
かいこ 0

兄・翔一の「翔梧!」 と呼ぶ声で、翔梧は過去にいたのだと改めて気付かされた。
 人喰い谷であの男北さんに出会ってからというもの、口うるさかった翔一の苦言は滅多に聞かれなくなり、時には考え込むことの多くなった翔一だったが、今朝は珍しく明るい声で翔梧を呼んだ。
「何だい兄さん」
 翔梧は聞こえてきた家の外に向かって応じながら、今日は寒いと思って窓の外を見れば雪の花が舞っている。玄関から外に出た翔梧の姿を見て、翔一が待ちかねたように「決めたよ!」のひと言を放った。
「決めたって、何の話し?」
「ほら、北さんが話した、今年になって戻って来るという子のことだけど」
「あゝ、あの繭の中に人魂を一緒に宿した蚕子とか言う?」
「そうだ、その子の事なんだが」
 翔一は北さんの話を信じていたのだ。
 翔梧の耳にあの男北さんの、「蚕の魂は翌年、九年目の繭を破り人魂を宿して九界に戻る」の、声が蘇る。年が明けたので九年目となったが、何を決めたというのだろうか。
「蚕子と一緒に住むことにした」 
  翔梧が問う前に答えを出した翔一だったが、どう受け取っていいのか困った様子の翔梧を見て、内容を察していないようだと気付いたらしい。
「一緒にと言うのは俺と蚕子が夫婦としてだ。それが一番いい方法だと思いついたんだ」
 晴れやかに言う翔一とは対照的に、翔梧は混乱をきたした。
 あの男と嫁だという蚕子、そして二人の子供たちがいていい雰囲気の家族が翔梧のまぶたの裏に浮かんだ。翔一の「決めた」の一言が、翔梧を交えて翔一の家族と食事をした茶の間の光景へとつながり、「あの男=翔一」の証しを揺るぎないものにしょうとする。

 
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