嘘だまり

かいこ(24)

2016年12月18日
かいこ 0

翔梧を十三年前という過去へ引きずり込んだ、「あの男」の姿が浮かんだ。 北さんから戻った「あの男」は翔一・翔梧の兄弟に告げた。
「蚕の魂は翌年、九年目の繭を破り人魂を宿して九界へ戻る」
 もはや先ほどのような朴訥さは見られず、独特の訛も今は失せ、北さんとはほど遠い雰囲気だ。
「会った最初に言った、話しておきたい内容というのは、蚕が九界に戻った後のことについてなんだ」
 遠くから切れぎれに聞こえる車のエンジン音。翔梧が遠目で見れば細尾峠側から下って来るバスが木々の間から見えた。
「お前たちと同じように父さんの子だ。戻った後の世話をどちらがするのか決めて欲しい」

 次第に近づくバスを横目で見ながら翔一が聞いた。
「大事なことを教えて欲しいがやけど」
「分かることなら何でも話すから、言うてごらん」
「戻ったとしても、蚕の世話の仕方が分からんのやけども」
「それは安心していい、人魂を宿した者だから」
 手を上げた二人のそばでバスが止まって入口の扉が開き、せわしいエンジン音が早く乗るようにと急かした。
 先に翔梧が乗り込み、続く翔一がタラップ上で聞いた。
「戻って来る子の名前は?」
「名前は蚕子だったと思う。戻ったら確かめてごらん」
 話しのすべてが終わらないうちに扉は閉まり、バスは城端を目指して走り始めた。

 
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