嘘だまり

かいこ(23)

2016年12月16日
かいこ 0

淡々と翔一は、「残った一頭が両親の様子を教えてくれたがですね。話しの内容を疑ったりして失礼なことを言うてしもたちゃ、堪忍して下さい」

 全てに納得できたという様子を見せた。
 一方、北さんの話しがいまだに信じられない翔梧は、「蚕が話す? そんな馬鹿な!」と、疑念を拭えない。受け取り方の違いが兄弟のその後を分ける。

 全てに納得の翔一が聞いた。

「それで、繭になった一頭のその後は?」

「今も繭の中で眠っているがやちゃ」
 到底信じられないという思いが翔梧の口をついて出た。

「そんな…… 八年もの長い間、繭の中にいるなんて」

 不審がる翔梧に目をやることもなく、北さんは話しを続けた。

「俺は人喰い谷で失せた一頭を捜しているさ中に、行き場が無くてさ迷う人魂とめぐり合い、境遇を聞きながらふと気が付いたことといえば、この子が繭になっても世話をしてくれる親がおらん(いない)ということだ」

 養蚕に熱心だった翔一・翔梧の父が事故に遭った今、存続か廃止かで揺れる蚕業技術指導所に繭を持ち込んでも、放って置かれるおそれが多分に有った。

「そうなるとこの子も人魂と同じように行き場が無くてさ迷うことになる。そこで俺は、蚕の命を繋ぐためにも、繭の中に人魂を一緒に宿したらどうやと」

 繭が出来上がる前の今ならば間に合う。

 

 先ほどから翔梧が気にした、ガサゴソと動き回る気配がついに姿を現す。気配は翔梧だけに伝わるのか、翔一に気付いた様子は見られなかった。

 姿を見せた不可解な気配は北さんの背中にりつき、「北さん」を「あの男」に引き戻そうとした。

 
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