嘘だまり

かいこ(16)

2016年12月02日
かいこ

さりげなく話してキセルの吸い口をくわえ、煙草に火をつけた。緑陰に紫煙と香りが漂う。
 先ほど翔梧は翔一から、「間に合わなくて蚕は全滅だった」と聞いているので、耳新しい話しではない。
「時間的に間に合わなかったということやね」
 翔一が北さんの話しを確認した。
「そうやなくて……、使えないものやった、という意味ながやちゃ」
「えっ、ど、どういうこと?」
 翔一、翔梧が同時に声を上げた。
「その……」
 北さんは考えをまとめるためか、沈黙したままで火皿に残る煙草を吹かした。吸い終えると握ったキセルの雁首をもう片方の手のひらに打ち付けて灰を落とし、煙草入れにキセルをしまいながら、
「順番があるさかい(有るので)その話は追々とするがにして(するとして)、先にご両親の話からしょまいけ(しましょう)」
 二人に断りを入れて話しの流れを変えた。
「あんたらも両親から聞いて知っていると思うが」
 そう前置きした北さんは次のように語った。

結婚する前の二人(翔一、翔梧の両親)は、共に富山の大空襲でともに家を焼け出されて孤児となり、それぞれに遠縁を頼って五箇山・上平と城端に来た。すぐに働きに出ることになり、一方は土方をしながら養蚕を手伝い、一方は機織り工場に勤めた。そうして働きながら月日が流れるうちに、五箇山にいる彼へ、「蚕業技術指導所が出来た、蚕のことに詳しいあんた来てくれんけ」と誘いが有り、すぐにも承諾。城端へ移り住んだ。
「あいつは桑の葉をバリバリと食べる蚕の姿をうっとりと眺め、手の平に載せた繭をそれこそ宝石を見るようにしとったもんな」
 北さんは遠くを見る目つきで懐かしそうに当時の様子を付け加えた。
 蚕業技術指導所では仕事柄、機織り工場に出向くが、そこで二人は出会い、付き合う内に一緒になると決めた。
「正絹と人絹、扱う物は違うが、互いに絹糸で結ばれていたんだな」
 日焼けした顔を照れたようにその時だけ綻ばせた北さんは、話しを一旦まとめた。
 話しの先はまだ見えないが、翔梧はこの時、十三年という過去へ遡った「あの男」が過去の翔一と同体とならなかったのは、若い翔一では話しの内容が重すぎて語るに適役ではないから避けたのだろう、と察しを付けた。

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