嘘だまり

かいこ(1)

2016年10月14日
かいこ

「か・い・こ」 蚕? 回顧? どちらを取りましょうか。えっ、両方とも! 欲張りですね。

ともあれ、過去を遡ってのぞいてしまった人の話しを進めさせていただきます。

- 第一章 -

辺りを包む白い世界、道にも薄く雪が積もっている。兄が微笑みながら見ている前で、白い道に残る黒い足跡が面白く、はしゃぎながら飛び回る自分がいた。
  ――ほら兄さん、足跡がこんなにくっきりと。
 翔梧は振り返って兄の笑顔と道に残った靴底の模様を交互に見た。突然の耳をつんざくブレーキ音。驚いて顔を上げれば兄の背後に迫る大型トラックの姿が視野に入る。暗転、車のライトが襲い、体が宙を舞って悲鳴をあげかけたところで翔梧は夢から覚めた。

寝汗で下着が濡れて気持ちが悪い。最近は思い出すことも少なくなった十二年前の場面が、今朝はなんで夢となって現れたのか。兄が他界したのは年明け早々。その八年前に事故で両親を亡くしている。その両親の祥月命日が明日に迫っていた。

梅雨に入ってからというもの雨模様が続いた。空を厚く覆った雨雲は日差しを遮り、辺りは早くもどんよりと薄暗い。翔梧はこのような雨の日にどこへも出かけたくなかったが、どうしても会って打合せをしなければならない用事ができた。もっと早くに気づいていれば明るいうちに何とか出来たはずだと悔やみながら、兄の持ち物だった時計を腕に付けて車に乗り込んだ。
「あれ、どうしたのだろう?」
 車を進めて程なく誘導灯の明りが薄暗い中を泳ぐのが見えて翔梧はブレーキを軽く踏み込み、誘導員の近くで車を止めて窓ガラスを下げた。白いヘルメット、反射材の付いた白い雨具姿が警察官でないと知り、翔梧はなぜかホッと息をつく。

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