嘘だまり

かいこ(14)

2016年11月26日
かいこ
「翔梧は何か聞いていないか」

頼れる弟の雰囲気を感じ取ったのか、考え込んだ顔付きの翔一が長い間抱えていた疑問を打ち明けるように聞いた。
「俺の翔一という名は長男だからいいとして、俺にはお前という弟しかいないのに、なぜか二、三、四と間を空けてお前は翔梧、変だと思わないか?」
 兄の様子から見て深刻な話しかと思えば、思いようでどうとでも取れることを聞かれ、翔梧は返す言葉に詰まった。
「そのことと両親の事故に何かつながりが有る、とでも?」
「そういう訳ではないが、もしかしたら、翔梧は何か理由を知っているかなと思っただけだ」
「名前なんて決める人たちは真剣かもしれないが、一人ひとりが間違われないようにするための符号のようなもの」
「翔梧は何事も気楽でいいな」
「兄さんは何事も細かく考えすぎだよ。ところで、父さんたちが向かった五箇山の養蚕農家だけど、蚕はその後どうなったの?」
「蚕は全滅だったと聞いた。父さんたちがもう少し早く着いたところで結果は同じだったようだ」
「そうか。父さんは悔しかっただろうな。養蚕の将来が掛かっていたのだから」
「しかたのない話しだ。その話については……」
 翔一は車が近づく音に気付き、話を止めて振り返った。視線の先に細尾峠側から下って来る車が見える。
「あっ、あそこに来る車は北さんじゃないか、北さんは父の友人で今日この場所で会うことになっている。その辺のいきさつに詳しいから聞いてみよう」
 やがて路肩に車を止め、手に花束を持った姿が兄弟に近づいた。
――どうして、どうしてなんだ!
 北さんの顔形が確かになるにつれて、翔梧は驚きのあまり声も出ない。

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