嘘だまり

何処(いづこ)へ ‐その15‐

2019年03月10日
嘘だまり 0
 降っていた雨は止んだ。更地と化した広場のカエデの近くにある石に腰を下ろした翔司と老人は、萎れたカエデの木を見つめて、どちらからともなくため息をついた。依然、ショウジの行方は分からず、心の底にどんよりと澱んだ疲れがある。
 時空の裂け目に落ちたショウゾウを救い出すにはカメラの力がいるが、機能を失った今、ショウゾウのいる裂け目の正確な位置さえつかめず、何一つできなかった。写狂老人は先程から何度もカメラをいじくりながら確かめたが、変わり果てたカメラは写す機能さえ無くしてしまった。まずはカエデを蘇らせて機能を取り戻す必要がある。
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 先ほどのように大規模な時空の歪みが起きればカメラの機能が戻ることは分かったが、そうたびたび時空の歪みは起きないだろうし、歪みで機能が戻ったとしても長続きはしないだろう。
 広場の家があった辺りの土をいとおしげに撫で、瞑目してショウジの無事を祈っていた老人が唐突に立ち上がって叫んだ。
「今、ショウジの声が聞こえた。ショウジはどこかで生きている、必ず生きている!」
 老人は土で汚れた手を払おうともせずに涙で濡れた顔を擦りながら、
「わしはな、ショウジは生きていると思えてならんのじゃ。ショウジは、ショウゾウが叔父を騙る男に連れて行かれると知って、咄嗟に時空の裂け目を作り、そこにショウゾウを逃がした。それほど機転がきくショウジのことじゃから、すさまじい炎の中でも必ず、逃れるすべを持っていたはずじゃ」
「そういえば……」
 火災の時、翔司の頭の中で響いた幼い声、凄まじい炎の中で見た、嘘だまりに包まれるショウジの姿などを打ち明けた。
「それじゃ! ショウジはその時の嘘だまりに包まれて、助かっているに違いない」
 喜色満面の老人は翔司が顔をしかめるほど強く肩を叩いた。老人のあまりの喜びようを見て、逆に、翔司は不安になった。
「でもその嘘だまりはすぐに掻き消え、その後どうなったのか、確かめてはいないが」
「なぁに、それだけ分かれば十分」
「そういえば、忘れていたことがある」
 翔司は一連の出来事の後急いで表へ戻ろうとした時に、カメラから地面に転げ落ちた物があるのを今になって思い出した。
 写真を撮るためのフイルムは、カエデを撮ろうとして全身を光で貫かれ、辺りが歪んだような違和感で包まれた際にカメラから失せ、以後、装填していない。
 入れた内ポケットを確かめると、フイルムが入る容器と似たような大きさの筒状容器で、中に粉が入っているのかさらさらと動く感触がある。
「これがカメラから」
 翔司が差し出した容器の蓋を開けてすぐに確かめた老人は、「これは……」と唸った。

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