嘘だまり

何処(いづこ)へ ‐その14‐

2019年03月03日
嘘だまり 0
「楓、返すのだ、お前もその杖の大切さを分かっているはず、早まっては自滅行為となるぞ!」
「ショウジが生きていないというのなら、楓だけが蘇っても仕方がない」
 杖を取り戻そうと肖造が楓にとびかかるよりも先に、まだ燃え盛る炎に向かった楓は杖を炎の中へ投げ入れた。
 火の粉がパっと舞い上がり、杖が吸い込まれてすぐに、一瞬、炎が明るくなる。
「パシッ」と何かが弾ける音。見る見るうちに、楓の姿は陽炎のように揺らぎ、姿はおぼろげに。
 楓にとびかかった肖造は、空をつかんで地面を転げた。
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♪ おうまのおやこは なかよしこよし
   いつでもいっしょに
   ぽっくりぽっくりあるく ♪ 
 楓の歌声がかすかに聞こえたがショウジの歌声が重なることは無く、その歌声もやがては途切れ、楓の姿はまったく見えなくなった。
 平屋の家の、炎をあげながらも辛うじて立っていた柱、形が僅かに残った屋根などが燃え尽き、崩れて熱い灰の塊となった。
「こんなつもりではなかった」
 嘘だまりを操る道具を失い、夢ついえた肖造は泥中にひざまずいたまま、先ほどの楓と同じように繰り言を並べて悔やんだ。その肖造も翔司と老人の視線を感じて決まり悪くなったのか、タデの葉を噛み下したような顔つきとなり、何処へともなく去った。
「楓はカエデの精のようじゃな、どうりで、ショウゾウから『逃げろ』と言われても、逃げることが出来ぬわけじゃ。楓はカエデの植わった地からは離れられぬからの。肖造は我々の嘘だまりを絶つためにカエデを萎れさせたものの、未練たっぷりの楓は嘘だまりを使って蘇らせた。だがそれも操る杖を失ってはうたかたにすぎぬ」

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素姓乱雑
記事作成者: 素姓乱雑
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