嘘だまり

何処(いづこ)へ ‐その13‐

2019年02月17日
嘘だまり 0
「こんなつもりじゃなかった」
 楓はもはやショウジを助け出すのは無理と覚ったのか、濡れた地面にへたばり、呆けたように繰り言を並べて悔やんだ。
 家を包む炎は屋根を突き抜け天をも焦がす。火の回った屋根から瓦が次々と落ちた。
「見よ! そこな翔司は萎れもせずに突っ立っているではないか、ショウジが焼け死んでも翔司が生きているということは、この男はショウジではなかったということだ」
 肖造は勝利の宣言をするかのように、杖を高々と振り上げた。
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 嘘だまりを使うとなれば嘘だまりを操る道具が必要。翔司は先ほどから、肖造がいまも身体から離さずに持ち歩いているはずだと注意深く眺めていた。よく見れば肖造が持つ杖の上部は独特な形をしている。
(杖…… そうだ!、 肖造が持ち歩いているものといえば、杖) 
 だが、杖を握りしめる肖造に隙がない。むやみに近づけば警戒心を抱くだろう。
 平屋の家が建てられた時、ここに住まう家族に遥かな夢と希望を与えたに違いない。家を建てると決めてから完成するまで家族は多くの労力を注いだであろう、それが僅かの間で無に帰す。いかんともしがたく、翔司たちは歯がゆい思いで燃え落ちるのを見ているしかなかった。
「時空の裂け目に落ちたショウゾウはそのまま捨て置く。写狂老人は、ショウジの守役をしくじったショウゾウを庇ったばかりか、神の出入りする道を閉ざした罪で追放とする。これは神の御裁きである。私の執り成しで軽い処罰で済んだことを感謝してどこへなりと立ち去るがいい」 
 燃え尽きて炭化した柱が砕け散り、骨組みだけになった屋根が支えを失い崩れ落ちて灰煙が舞う中で、仁王立ちになり処断を告げた肖造はえぐい灰を吸って咳き込んだ。
「今だ!」
 隙をうかがっていた翔司が事を起すよりも先に、やにわに立ち上がった楓が肖造から杖を奪い取った。
「楓、何をする、この杖は苦心惨憺の末、手に入れたものだ、返せ!」
「嫌よ! この杖はショウジの拵えたもの、だから持ち主のショウジに返すわ」
 肖造の要求を拒んだ楓は杖を後ろ手に持ち、首を振って「いやいや」しながら後じさりで炎に近づく。楓の意図を察したのか、肖造はうろたえた。
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素姓乱雑
記事作成者: 素姓乱雑
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