嘘だまり

何処(いづこ)へ ‐その12‐

2019年02月09日
嘘だまり 0
 翔司は目を凝らして嘘だまりの行方を確かめようとしたが、立っている所には火の粉が降りそそぎ、はじけた燃えかすが飛んでくる。やむなく、嘘だまりが見えた辺りに目をやりながら、少しずつ、後じさりで炎から遠ざかった。
(ショウジは、声が聞こえた表の方へ逃げたのかもしれない)
 そう思った翔司が急いで表へ戻ろうとしたその時、手に持ったカメラのフイルムを装填する蓋が不意に開き、小さな筒状のものが地面に転げ落ちた。
(あれ、フイルムが残っていたのか? )
 翔司は落ちたものを拾い上げて服の内ポケットにしまい、家の表へ急いだ。
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 先ほど翔司が目にした、「歪んだ時空」は消えて正常に戻ったが、カメラも使えない古びた姿に戻ってしまった。
 平屋の家全体がおぞましい炎と煙に包まれ始める。表の玄関口では助け出された楓が、家の中に取り残されたショウジの名を叫びながら炎を上げる家に飛び込もうとした。半狂乱になった楓の力はことのほか強く、引き止めにかかった老人は掴んだ楓に引きずられた。
 近隣に人はいないのか、誰一人として消火に駆けつける者はいない。だがすでに、誰かが駆けつけたとしてもなすすべがないほど火の勢いは激しく、燃え盛る炎から離れていても肌が焦げそうに熱い。そうなっても楓はショウジの名を叫び、老人の手を振り放そうとした。
 それまで何ごともなかったように楓を見降ろしていた肖造が、突き放すように声を放った。
「ショウジは不幸にも修業中に命を落とした」
「何を言うの! こちらにはショウジかもしれない翔司という……」
「楓、その話はもう済んだこと。私は家の中で炎にまかれるショウジをこの目ではっきりと見た。あれだけの炎に巻かれては生きていまい」
「そこまで見ていながら、何もしないで戻って来たの!」
 目を吊り上げて迫る楓に辟易してか、肖造は宥めにかかった。
「楓、私が見かけた時はすでに火の勢いが激しく、ショウジのそばへ行こうとすればこちらの身が危うい。仕方が無かったのだ」
「そんな…… 可哀想に」
「唆したのは私かもしれぬが、事を決めるのは喜怒哀楽を描く神。そのことはお前たちもショウジから聞いて分かっていたはず。私は神の表すことを見届けただけだ」
 今になって空から涙雨が降りそそぐが、火勢を弱めるまでに至らなかった。

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素姓乱雑
記事作成者: 素姓乱雑
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