嘘だまり

何処(いづこ)へ ‐その11‐

2019年02月03日
嘘だまり 0
 煙ときな臭さが漂った。驚いた翔司が平屋の家を見ると、家から白い煙が立ち上り、小さな炎が見え隠れする。
「炎……」「幼い頃、お世話になった病院」
 翔司の記憶の中にある曖昧模糊としたものが渦となって浮かんでこようとして、さらに落ち着かなくさせた。
 家の中から飛び出した鶏がけたたましい鳴き声をたてながら、羽をばたつかせてあちらこちらへと炎と煙から遠ざかろうとするが、依然、ショウジと楓の姿は見えない。
「助けて!」
 ふいに、幼い悲鳴が頭の中に響いた。

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 驚いた翔司は悲鳴がどこから聞こえたのか確かめようとするが、それよりも早くに蘇ったカメラが、「肖造の嘘だまりを食い止めている。急いで!、早く!」と、しきりに急かした。浮かびかけた記憶はどこかへ吹き飛んでしまった。翔司は急かすカメラに突き動かされて家の裏手に回った。裏手ではおぞましげな炎が窓ガラスを割り、部屋の中から赤い舌先を覗かせて屋根裏をなめていた。
 翔司は本能の赴くままにカメラを懐から取り出し、姿は見えないが人のいる気配がする炎の向こうの闇に、レンズの先を合わせてシャッターを幾度か切った。先ほどまで作れなかった嘘だまりが炎の向こうに生じ、膨らむにつれて、逆巻く炎と部屋の一部が持ち上がり始めた。
「パチパチ」燃えてはじける木の音、「ガシャン、ガシャン」ガラスの割れる音が次々と響き、屋根裏がきな臭さと煙、炎で包まれ始めた。辺りに熱風が起こり、膨らんだ嘘だまりをおぞましげな赤黒い炎が襲って巻き上がる。肌を焦がす熱さに翔司は顔をそむけながらも、嘘だまりから目を逸らさずにシャッターを切り続けた。
「大変だ! 家の中にショウジがいる」 「ショウジ、どこにいるのだ!」
 老人の叫び声に気を取られた翔司が、嘘だまりからわずかに目を逸らした間に、膨らんだ嘘だまりは掻き消えたように見えなくなり、すさまじい炎だけが巻き上げていた。
「ありがとう」
 先ほどの差し迫った声とは違った安らかな声が翔司の頭の中に響き、肌を焦がす熱さとは別に、それまで後頭部に有った「チリチリ」と焼けるような痛み、炙られるような熱さが「ふっ」と消えた。
 
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