嘘だまり

何処(いづこ)へ ‐その9‐

2019年01月20日
嘘だまり 0
 時おり吹く強い風が平屋の家を覆った嘘だまりを激しくはためかせて、平屋の家を露にする。
 翔司は家の中にいるはずの楓とショウジを気づかうが、落ちたショウゾウをそのままにした、時空の裂け目から離れぬ老人を放っても置けない。これが定めと言うのだろうか、翔司はショウジの身に危険が迫るのを予感していながら、肖造の身辺から離れられなかった。その肖造が唐突に奇妙なことを言い出した。
「老人はショウジが小細工したカメラで、カエデの根元に生じる泡のような嘘だまりをせっせとかき集め、ショウジが託した写真集とカメラをそこな未来のショウジと思われる者に渡そうとした。無くしたショウジの記憶に光を当て、人類がとうに失った、戒められた記憶を取り戻そうとした」
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「待って、ショウジが託した? そこな未来のショウジ? 無くしたショウジの記憶? それは誰のこと?」
 出し抜けに、肖造の口から飛び出した幾つもの「ショウジ」は、翔司を混乱させた。そればかりか、写真集とカメラは老人から譲られたはずなのに、前もって企てされていたとなると、譲られたいきさつばかりか今まで起きたすべてが疑わしくなってくる。
「肖造の言うようなことを覚えていないか?」
 老人は肖造の話を否定しない、心もとない声でいまや頼りの翔司を見上げた。
「老人が誰に何を渡そうと、カエデが枯れて嘘だまりを作れぬ今となっては僅かの役にも立たぬ。ましてや、翔司がショウジでいた記憶がないとなると、私が恐れることなどまったく無い」
「カエデが枯れた……」
 望みを絶たれたと知った老人は悲痛な声を上げた。
 翔司が初めて見たときは陽の光を浴び、まぶしい姿を見せたカエデの木。今は無残に萎れ、哀れな姿をさらした。慌てて懐から取り出したカメラは機能を失って動かない。

 
 何が起きるかを予知したショウジからいろいろと明かされたという老人は、、嘘だまりを仕掛けた空間を使い、何かと翔司を試したというが、 翔司は老人が思っているような記憶など持ち合わせていなかった。
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素姓乱雑
記事作成者: 素姓乱雑
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