嘘だまり

何処(いづこ)へ ‐その5‐

「見破られることは分かっていましたが、お二人をあそこまで騙せると思いませんでした。そうそう、私を手伝ってくれた男についてひと言触れておきましょう。以前から写狂老人を調べている者がいましてね、本屋で知り合って口を利くうちに思うところが一致、病院に嘘だまりを仕掛け、老人をおびき寄せて懲らしめたいのだと打ち明けると、男はショウゾウの誘い出しや成りすましを喜んで手伝ってくれました。さすがに、嘘だまりはどんなものかを知って驚いたようですが。聞くところによれば写狂老人と男は過去に関わりがあるようですね」
 老人は思い当たることがあるのかハッとした顔を見せ、遠い過去を探るように目を細めた老人は告白を始めた。
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「人とは愚かなもので、自分の持つカメラが他人のカメラよりも優れていると知り有頂天になって、優れたカメラ持つだけで誰よりも優れた写真を撮れるものと思い違いをすることがある。また、自分のカメラを自慢したいと思う心持ちから、自分でも気づかぬうちに他人の持つカメラを蔑み悪口を平気で放つこともある」
 飄々として見える老人にも心の奥底に秘めた傷があると知って、翔司は思わず老人の横顔を窺った。翔司から視線を逸らした老人は変わらずに砂ぼこりが舞う広場の一点を見つめている。
「しかもそのような者は、蔑んだ相手の立場になって考えることなど無いから、自分の悪口により相手が傷つくなどと考えてもみない。じゃがそのような者が撮ったものを、現像【撮影したフイルムに、像が現れるように処理をする】して印画紙に焼き付けてみると、思わぬところで、そうした思い違いが像となって現れることがある」
 時おり強まる風が老人の白髪を乱した。
「わしは写真に狂って撮りまくった一人じゃが、このわしにも競い合った相手がいる。わしとその相手は肝心の撮ることよりも、写真に関するいろんな物を買い漁って自慢しあったのじゃ。写真となると撮影機材だけでも大変なものじゃが、マニアともなれば自分で現像処理から焼き付けまでこなすから、買い漁った物は半端じゃ無い。現像処理に必要な暗室も押し入れなどの間に合わせでなく、立派なものを拵えてな。そんな時に、素晴らしいカメラを相手と競り合った末に、手に入れたのじゃ」
 過去を追う老人の表情は陰り、口調は重くなった。
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素姓乱雑
Posted by素姓乱雑

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