嘘だまり

何処(いづこ)へ ‐その4‐

 声の主を確かめようと顔を上げた途端、突風に巻き上げられた砂ぼこりが二人を襲う。手で顔を覆ってやり過ごし、砂ぼこりにざらつく顔を手でこすって目を開けた。砂ぼこりが目に入ったのか涙目になりながらも、頭上の姿が鮮明になるにつれて、呆気にとられた二人は口をポカンと開けた。
 やがて老人は驚きを隠しきれないのか顎鬚の先を細かに震えさせる。
 この場所に現れることのない人物だった。
「し、肖造、本屋にいるはずのお前が何でここにいるのじゃ?」
「どうして肖造がここに?」
 男は紛れもなく、翔司が本屋で会った肖造。
 頭上の肖造は逆光になって表情は定かでないが、翔司が本屋で見た生真面目な雰囲気はどこにも見当たらない。
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「お二人ともよくやってくれました」
 肖造は皮肉たっぷりに二人をねぎらった。
「ここまで進めるのにずいぶんと苦労しました。病院であなたたちが会った、ショウゾウに成りすました男に二人とも見覚えがあるはずです。いつも本屋へ客として来ていましたから」
 そう言われてみれば本屋で、不自然な通路を確かめる翔司の頭から足もとまで眺め、不審を浮かべた顔で足早く立ち去った人物がいる。あの男がそうだとすると、写狂老人ばかりでなく翔司の行動も見張っていたというのか。
 翔司に一つの疑問が湧いた。
 本屋で起きた不思議な出来事により、翔司はカメラを譲る相手に選ばれたと思っていたがそうではなく、最初から翔司へ譲るために仕組んだものではないか?
「これで私は神の目を気にすることなく、物事が運べます」
「謀ったな肖造、な、何するつもりなのじゃ」
「ふふっ、嘘だまりがあれば人間など思うように操れますからね。ですが、嘘だまりを作れるものは一人でいい」
嘘だまりを仕掛けるものがわしらの他にいるというのか」
「お二人は、病院に仕掛けた私の嘘だまりにまんまと騙されました」
 空は厚い雲で覆われて薄暗く、冬へ戻ったように肌寒い風が吹き始めた。

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素姓乱雑
Posted by素姓乱雑

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