嘘だまり

見えない敵 ‐その6‐

2018年10月20日
嘘だまり 0
 翔司は「あっ」という間もなく引きずり込まれてもんどりをうった。ところが思った衝撃はなく体が頼りなく揺れるだけで、水に浮かんだような感触。
 翔司は辺りを見回した。
「ここはどこ?」
嘘だまりの中じゃ」
 翔司を引きずり込んだのは老人、思った以上に力持ちだ。
「ためらってはいかん! 万一、流れに攫われたらここへは戻ってこられぬ」
 老人はそう言いながら、早くも作業を続けている。
 景色の貼り付けられていない嘘だまりは、水泡の中にいる雰囲気。
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 僅かな明かりは外から届くが、嘘だまりの縁がどこまでなのか見当も付かない。
 激しい流れに抗する嘘だまりは不規則な動きを頻繁に繰り返した。時おり抗しきれなくなるのか足元が頼りなく揺れる。
「いいかな、わしが岩の隙間に嘘だまりを詰めていくから、お前さんは、詰めた嘘だまりを大きくするのじゃ」
 翔司は先ほど老人が行ったことをまねて時空の歪みにレンズの先を向け、何度か試みるうちにレンズの先を向けただけで、ファインダーに浮かんだ像をわざわざ覗かなくても見えるようになった。翔司がそのことに驚いていると、
「前に言ったはずだ。『カメラの目とお前さんの目が枝道で繋いであれば、カメラと離れていても目の役割をこなすことができる』とな。お前さんの目はすでにカメラと繋げてあるのじゃが、お前さんがいつ気付くかと待っていた」
 老人は事も無げに言った。
 頼りない泡のような嘘だまりだがやり方しだいで重い岩をも持ち上げた。機械でも動きそうにない岩が少しずつ崖へ向かって傾いでゆく。
「よし、この調子だ!」
 老人が言った途端、
「ズドーン!」
 見えない衝撃が、嘘だまりの中にいる翔司と老人を襲った。
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素姓乱雑
記事作成者: 素姓乱雑
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