嘘だまり

見えない敵 ‐その4‐

 翔司からカメラを受け取った写狂老人は岩のまわりにレンズの先を向けた。
「ほれファインダーを覗いてごらん、この岩の隠れた一面がこのように現れている。時空が歪んでいると一目でわかるじゃろう」
 慎重に向けたファインダーに映し出される景色は岩の方角へ向かうに従い奇妙に歪んでいた。
「むやみにこの機能を使ってはいかん。あたりかまわずに使って運悪く質量の大きいものに出くわせば、そいつにカメラを攫われる恐れがあるからじゃ。この岩も予想以上に質量が大きいから何が起こるか分からん」
 再び老人はレンズの先を歪みの少ない所から大きい方角に向けて慎重にたどり始めた。レンズの先を決して岩の中心に向けないように、細心の注意を払っているのが翔司にも分かる。
「あった! 岩の手前に手頃な隙間があるようじゃ」
 目的の隙間を見つけた老人は岩を離れて崖に向かい、谷底にレンズの先を向け始めた。
「言っておくがこの岩は予想以上に時空への影響が大きいからどこへでも転がしてはいかん。岩の影響が及ばぬ場所を捜してそこに治めないと、転がり落ちた場所で再び時空に歪みを引き起こすからじゃ」
 そう言いながらも何かを探していた老人の動きが止まる。谷底の一点を睨んで考え込んだ老人は、「よっしゃ!」と掛け声を放ち、「戦の始まり」を告げた。
 カメラを持ち直した老人は、「隙間がある」と言った所に再びレンズの先を向け、何度かシャッターを切った。その度に不規則な水泡のようなものが、岩の重みに押し潰されながらも少しずつ膨らむ。
「見てみい、あれが嘘だまり本来の姿じゃ!」
 驚いたことに、水泡のような嘘だまりが膨らむにつれて、あの重い岩が僅かながらも動いた。岩が傾ぎ始めるとまわりの陽気が一変する。厚い雲が空を覆って辺りは薄暗くなり、嘘だまりを取り巻く何かがすさまじい勢いで流れ始めた。すでに老人の白髪白髭は別人のようそそけだち、翔司を見ようともしないで、岩を睨んだ目はぎらぎらとして近寄りがたい。やがて老人は、岩からはみ出た嘘だまりが、大人二人分の大きさに膨らんだのを見計らい、「絶対に離すなよ」と言って翔司にカメラを返した。
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素姓乱雑
Posted by素姓乱雑

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