見えない敵 ‐その3‐

 翔司は写狂老人の話しでそれとなく分かったことがある。カメラの仕組みまでは分からないが、質量のあるものを探し当てられるということは……。翔司は胸にあるカメラを手に取って推測を口にした。
「今の話しからすると、このカメラは大きな質量を持つことができ、時空に生じさせた歪みを枝道としているのですね」
「このカメラ自体大きな質量を持つことは無いが、時空の一部を操ることはできる。枝道の成り立ちはその通りじゃが、正しく言えば歪んだ時空にできるほんのわずかな隙間」
 いま翔司は、肖造の話しに出た「1999年7の月」以前の過去にいることになるが、そうだとすると……。
「枝道は、現在から過去、未来へもつなぐことができる?」
「過去や未来に向けて時空を歪ませることはできるが、時間は常に過去から未来へ向かって流れているのでな、そのまま保つことは生易しいことではない」
 老人は、枝道を過去や未来へつなぐことが「できる」とも「できない」とも言わなかった。
 カメラが「おあいにくさま」と言いたげに、翔司へ微笑んで見せた
SC_1365
 小高い丘の中腹に広がる草原。遮るものが何もないだけに、わずかの風でも肌で感じ取ることができた。空は青く、降り注ぐ春の光は懈怠けたいを誘う。翔司は、軟らかい草のしとねの上で、ショウゾウや老人の話など忘れて寝転んでいたい気分だ。翔司一人だったらそうしただろう。 
 草原の一端は崖になって落ち込んでいた。その崖ぎわに、両手を伸ばして少し足りないほどの差し渡しで土がむき出しになった所があり、その中心に歪な鶏卵を立てたような形の岩が見える。
「あれに見える岩がそうかも知れないな」
「触れても大丈夫?」
「触れるだけならば、何のさわりもない」
 翔司は岩に触れたが老人の言うとおりで何ともない。背伸びして手を伸ばしたがわずかながら岩の高さに及ばず、岩の胴まわりで一番太い所は、大人二人が囲んで手を繋ぎ合えば足りるだろう。岩は何かの記念碑にも見えるという以外、特に変わった特徴は見られないが、どっしりとした印象を与えた。
 先ほど老人からいろんな話しを聞かされただけに、おぞましい岩を想像した翔司は拍子抜けとなった
「この岩は時空に歪みを起こすだけで、他には、わずかな影響も及ぼさぬ、どこにでもあるあたりまえの岩じゃが、大王の仕組んだ岩だけに、僅かでも岩に害をなせば一変する恐ろしい岩じゃ。ことに、人間の拵えた機械で動かそうとすれば、たちまちのうちに機械なんぞは吹き飛んでしまう」
「力の強い機械でも無理となれば、このような重い岩を…… どうして取り除く?」
「人知の及ばない力に打ち勝つ手段として、相手の力を活かす方法がある。今も、岩自体が引き起こす力を活かす」
「岩が引き起こす力?」
「わしは先ほど、【時空が歪む】と言ったが、必ずどこかで、大小を問わず時空の歪んでいるところがあり、その歪んだ所では必然的に隙間が生じる。そのカメラは歪んだ時空を探し出し、そこに生じる泡のような隙間をかき集め、溜まりを作ることができる。それがわしの言う【嘘だまり】の原形なんじゃが、それを使って岩を動かそうと思う」
――本当にこの岩が、時空に歪みを引き起こす岩なのか? あり得ない方法でこのような重い岩が本当に動くのだろうか? 
 翔司は信じられなかった。
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素姓乱雑
Posted by素姓乱雑

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