嘘だまり

揺れる大地 -その12‐

「こうしておかないと嘘だまりがしぼんで、我々がいなくなったとすぐに知れるのでな。それにしてもよく暴れたのう。もっとも、暴れてくれたから逃げ道が出来たようなものじゃが」
 写狂老人は、「ベッドの足下の嘘だまりはもみくちゃになって破れる寸前だった」と、明かした。
 老人と翔司が急ぎ足で病院の出口に向かうさなかに大地がゆっくりとうねり出した。先ほどの、病院職員がこしらえたわざとらしい揺れとは違い、心の芯まで揺らす重いうねり。
「またもや、嘘だまりを使った罠?」
「いかん、今度は本物の揺れじゃ」
 建物が軋み、辺りがかすむほど埃が舞い、ガラス戸がガシガシと騒ぐ中、足取りが進まぬ翔司の脳裏にショウゾウに扮した男の言葉がよみがえる。
「重力の均衡が破れた地球はいたる所でうねりを起こし、掘り起こした大地は荒れ果てて乾き、撒き散らされた《害》で大地は汚れ、水や大気まで汚れて育まれる作物に悪い影響を及ぼすのです」
 うねりから来る地鳴りが、次々と掘られて傷つく大地の悲鳴に聞こえて、しゃがみ込んだ翔司は両手で耳をふさいだ。
「いつしか人間はうねり狂う大地、定まらない風や雨、気温などに怯えなければならなくなりました。神を畏れなくなった人間はそうなっても戒められたことに思いが至らぬのか、諸々のものを地中から掘り続けて止めようとしない」
――このままだと大地は治まらないのではないか。翔司は不安に駆られた。
「ほぅれ、私の言った通りだ。人間どもに荒らされた大地が怒ってうねりだした」
 翔司の頭の中で、「大地を掘り続けるのはすぐにも止めろ!」と、男の声が木霊する。
「しっかりしろ! 出口はすぐそこじゃ」
 翔司の手を掴んだ老人は薄明かりの見える方角を指して叫んだ。
 長い時間、翔司は揺れに翻弄された気がした。二人が建物を抜け出すと同時に、瀟洒な病院が音も立てずにゆっくり傾ぎ、「アッ」と言う間もなくねじ伏せるように倒れた。それはまるで、自分たちの足元を掘り尽くした末に崩れゆく人間社会の縮図を見るようだ。翔司は、男の言うことがまんざら嘘ではないと思った。
 二人は頭から足のつま先まで埃まみれ。
「これはどうする?」
 翔司は病院名が入ったスリッパ履きの情けない足元を指さした。
「我々の履き物はつぶれた建物の下になってしまった。仕方がないのう、代わりの履き物を用意しよう」
 二人を見たカメラが一瞬、クスッと笑ったような気がした。 
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素姓乱雑
Posted by素姓乱雑

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