嘘だまり

かいこ(8)

2016年11月12日
かいこ

- 第二章 -

「翔梧!」

聞き覚えのある兄の声で翔梧は正気に戻った。
――何だ、今まで見たのは夢だったのか。
 そう思ったがなにか様子が変だ。翔梧の身形すべてが若々しい。

〔どうだ、十三年前に戻った気分は。若くなるのだから、そう悪くはないだろう 〕

先ほどまで目の前で話していた男の声がする。翔梧もこの年の頃は兄の庇護のもと、何の屈託もない。

「十三年前? 十二年前ではなかったのか」
〔聞いていなかったのか、「12本は過ぎた」と俺は言ったはずだ 〕
「減らず口をたたく。お前は誰だ!」
〔何度も言わせるな、俺はお前の兄だと言ってるではないか 〕
「でたらめを言うな、兄の声なら今しがた別の方角から聞こえた」
「翔梧、何をぶつぶつ言っている、さっきからおかしいぞ。呼んでいるのに聞こえないのか、早くしろ」
〔ほれほれ、怖い兄様のお呼びだ。さてと、俺もしばらくは様子見とするか 〕

急かされた翔梧は「兄」と呼べぬ男の声に構っている暇などない。
「あっ、兄さん聞こえているよ、すぐに行きます」
 急いで部屋を出た翔梧は小走りで居間に向かった。
 居間の父と母の位牌が並んで安置された小さな仏壇の前ではすでにお坊さんの読経が始まっていて、できるだけ小さく屈んで居間に入り兄の隣にそっと座った翔梧を、兄は咎めるように見た。
 兄弟だけの簡素な法要はすぐに終わり、お坊さんがお帰りになると案の定、
「お前はいつまでたっても子供だな、今日が何の日か分かっているはずだ」
「あぁ、父さんと母さんの命日だと言うのだろう、俺だってそれぐらい分かっているよ」
「分かっているなら、始まる時間も分かっていたはずだ、約束した時間は守れ」
 翔梧はこの兄が苦手だ。父や母がいなくなってからは些細なことに目くじらを立て、最近は一段とうるさくなった気がする。

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素姓乱雑
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