揺れる大地 -その10-

 老人は鋭く問いただしたが男は天井に視線を向けたままで、辺りが揺れているのに逃げる気配もない。
「この先も人間どもが滅びるまで、大地はうねり続ける」
 唐突に激しい揺れが緩んだ。その時を待っていたように、老人は椅子の上に残っていた風呂敷をやにわにつかみ、しゃべり続ける包帯だらけの口に被せて強く押さえた。
「な、何をする」
 ベッド上の身体が抗して何度か跳ね、そのたびに包帯がずれた。身に着けた職員の衣服が剥き出しになり、露になった顔に向けて、
「やはりな。お前はショウゾウではなくショウゾウの叔父と名乗った男。儂を騙せるとでも思ったか」
 男に馬乗りになり、風呂敷を口にくわえさせて振り返った老人はカメラに目をやり、小声で「急ぐんじゃ!」と翔司に目配せした。言われるままにカメラを覗いた翔司は驚くべき光景を見る。
 病室は敵が仕掛けた嘘だまり。部屋の出口は袋のようなものと繋がっていて、受付にいたもう一人の職員が嘘だまりを揺すり、疲れたのかあくびをしながら翔司と老人が部屋から慌てて飛び出すの待ち構えている。この仕掛けられた病室から抜け出そうにも出口は使えない。
「カメラの奴があまりにも騒ぐのでおかしいと思ったがやはり罠だつたのか。部屋の様子は分かったからこちらを手伝ってくれんかの」
 もつれた包帯から抜け出そうともがく男を翔司が押さえつける間に、ゆるんだ包帯で手足を縛り直して動けないようにした。
「苦しい、息ができないから緩めてくれ」
 嘘だまりが揺れれば翔司と老人があわてて逃げだすものと決めてかかり、油断をして自由を奪われた男は情けない声を出した。
「あの高い崖から落ちてよくもまあ無事でいたものだ。それはそうとして、ショウゾウをどこで見失ったか言えば楽にしてやる」
 老人は口にくわえさせた風呂敷を緩めてわずかにずらせば、男は喘ぎながら息を整えた。  
「庭にあるカエデの木の近くじゃ」
「カエデ? 玄関を出てすぐではないか」
「わしゃショウゾウの動きに気を取られていたので足元に鶏がいたのに気付かず、危うく踏んづけそうになって思わず後退りをしたが、鶏の奴も驚いたのかけたたましい鳴き声を立て、飛べない癖に羽を広げて飛ぶような仕種を何度か見せおった。そのためか羽根にあおられて風が起こり、その風に乗って羽毛が飛び散り、まわりの空気が歪んで見え、眩惑に会ったようになって瞬きをした僅かの間にショウゾウの姿が消えたのだ」
「じゃがお前は、丘の方角から戻ってきた」
「あの時は、ショウゾウが聞き分けて先に丘へ行ったと思い、すぐに丘へ向かったが探しても姿が見えないから戻ってきたんじゃ。わしが丘から戻るのを見ていたとは、爺さんあの場にでもいたのか?」
「そのぅじゃな……」
 まさか「カメラから見ていた」とも言えない老人は言葉に詰まった。
「まぁいい、あの小童からでも聞いたのじゃろう。あの小童め、生意気にも鶏に驚く我々の足もとへカメラを向けてきた」
「足もとへ?」
 老人は考え込んだ。ショウジは何か意味があって足もとにカメラを向けたのだろうが、その時の様子は写し出されていない。
「見落としじゃろうか?、そんなはずはないと思うが……」
「何をぶつぶつ言っている、それよりもあの時のカメラはどうした。わしは崖から落ちる前に変な世界を見たが、あの時も爺さんはわしにカメラを向けてきた、あのカメラに何ぞ仕掛けでもあるのか」
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素姓乱雑
Posted by素姓乱雑

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