揺れる大地 -その8-

「えっ、今?」
「あゝ、いつかは聞かさねばならぬ。ショウゾウ、しんどいだろうが聞かせてやってくれ」
 老人は何を思ったのか、話すのがやっと、というショウゾウに冷たく言い放った。ショウゾウは再びもぞもぞとして、天井に視線を移す。
「アダムとイブの、【禁断の果実】の話しは知っていると思うが」
 諦めて渋々と始めたショウゾウの口調は抑揚のないものに変わった。
 アダムとイブ? 思ってもみないに始まりに翔司は言葉を返せない。
  その話ならば……
――そそのかされたといえ、楽園にある木の、食べることを禁じられた果実をアダムとイブは食べてしまう。結果二人は恋に陥り、アダムとイブは裸体でいる恥ずかしさを知る。これにより果実を食べたと知った神はアダムとイブを楽園から追放する。罰として生きるには厳しい環境と苦役を課し、不死を剥奪するが生命は子供たちに引き継がれることとした。
 翔司の知る限りではこういったもの。
「追放する際に他にも、アダムとイブに申し渡したことがあります」
「申し渡したことじゃとな、厳しい環境と苦役を課した他に?」
 包帯の下に隠れたショウゾウの表情は分からない。
「二人の子孫が贅をつくした生活に溺れることを憂えた神は、見えない地中へ諸々の物を〔害〕と組み合わせて埋めています」
「ショウゾウ、諸々の物とはなんじゃ?」
「人間が言う処の、石油・石炭・鉄などありとあらゆるものです」

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 ショウゾウは淡々と続ける。
「申し渡した内容というのは、〔地中にあるものを無暗に掘り出してはならない。掘り出せば組み合わせてある害に苦しむばかりか、使うことによって身の破滅に至る。いま申し渡した内容を子々孫々に伝えよ〕、というものです」
 ショウゾウの声はしわがれているだけに神がかって重々しい。
「だが、すでに神はアダムとイブに厳しい環境と苦役を罰として課しています。戒めてばかりではあまりにも無慈悲だと慮り、人間が害に苦しまない程度、生きていく上で足しになるようにと、地上へ現れるよう取り計らいました。だから人間たちは、水や空気、土から育まれた作物、僅かな獲物、そして地上に現れた僅かなそれらで満足して、神を畏れながら生きていけばそれでよかった」
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Posted by素姓乱雑

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