嘘だまり

揺れる大地 -その6-

2018年07月29日
嘘だまり 0
 写狂老人は大勢の人達を頼んで辺り一帯を捜した結果、意外なことにショウゾウはほどなく見つかったというが、谷に落ちた男は探しても姿を見つけることができなかった。
 その後、調べてみればショウゾウの叔父という触れ込みは偽りで、男は何らかの目的で叔父という係累を騙って、ショウゾウに近づいたものと思われた。
「どこか胡散臭いところが有るような気もするが、ともかくショウゾウのいる病院を訪ねようと思う」
 病院は「徒歩で三十分程の所だ」と老人は言うが、翔司は健脚な老人に付いていくのが精一杯、まわりの景色を見る余裕など無かった。カメラを託す際に、「わしも老いたか、カメラを思ったように使いこなせなくなった」と言ったのが嘘のようだ。
 老人は翔司の胸にあるカメラにチラッと目をやり、
「今日はやけにおとなしいのぅ」 
 いつもならば出かけるのがうれしくて下げた胸で弾むカメラも、押し黙って揺れるに任せている。翔司はそっと撫でるが何の反応も示さなかった。 
 やがて見えてきたのは、木造・モルタル塗りの病院とは思えない西洋風の建物。二人は病院の前にある門をくぐり、つつじの植え込みがある庭を横切って玄関に入る。下駄箱と並んで敷かれたすのこの前で履物を脱いだ。
 消毒薬の匂いが漂う病院、
 慈愛に満ちた白衣のお医者さん、
 お医者さんが首から下げた聴診器、
 翔司は何よりも、病院の板張りになった薄暗い廊下を歩いて懐かしさが込み上げた。何の病気か忘れてしまったが幼い頃、このような病院でお世話になった記憶がある。それらの記憶をたどる前になぜかカメラが騒いだ。
「どうしたんじゃろう?」
 老人は治まらないカメラに目をやり、「これで包みなさい」と、翔司に風呂敷を渡した。カメラは一瞬不服そうな目線を老人に向けたが、何も言わないでされるままになった。
 老人が受付でショウゾウの名前を言い病室をたずねると、男性職員は、「ショウゾウ?」と、記憶をたどってか遠くを見るように目をすぼめた。
 別の職員が小声で口を添える。
「ほら、その患者なら院長の何とかで特別の室にいる」
「あっ、あの患者か。でも、病室に誰も入れたらダメじゃなかったのか?」
「いいよ、俺が許可を取ってやるから」 
 職員同士のおかしなやり取りの後で二人とも席を立ってしまい、ずいぶんと待たされた。そのうちの一人だけが戻ってきて、渡された案内図を見るとショウゾウの部屋は病院の中でも奥まった所の、人目に付きにくい納戸に続く部屋。病院の建物はまだ新しいが、板貼りの廊下を歩けば「ギシギシ」と板鳴りがする。
「なんじゃ、特別室というから一等地の、いい拵えの部屋かと思っていたのに」
 二人は受付で教えてもらった病室を捜し当て、老人が入り口の木造ドアをこぶしで「こつこつ」と叩けば、中からためらいがちな応答がある。
 ドアを開けて病室に入ると辺りの空間が歪んだように見え、包んだカメラが知らせたいことでも有るかのようにもぞもぞとした。
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usodamari
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素姓乱雑
記事作成者: 素姓乱雑
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