嘘だまり

蓮の花(5)

2016年11月10日
蓮の花

Y雄が病んで引き籠りとなりローンの支払いが滞ったと知るや、すぐに駆けつけた担当者はY雄に向かって冷たく言い放った。
「不始末で残ったローンはあなたの生命保険で払ってもらいます」
「そんな……」
 担当者は、Y雄が誰とも音信不通でいるのを探りあてている。
「あなたがこの世から消えても、すぐには誰も気付かない」

担当者の顔に冷酷な笑みが浮かんだ。
――最初からを払いきれないのを分かっていて組んだローンだ、この男はいずれはこうなる運命だったのだ。

手持ちのないY雄はここ数日間、食事をしていない。痩せて体力のないY雄は無精ヒゲばかりが目立つ。力尽きたところで裸にされ、放り出された風呂場でわずかにもがいたように見えたのがY雄の最後の姿だった。

担当者は部屋を出て行く。玄関の鍵は掛けない。
――玄関の鍵を掛けてしまえば鍵は戻せない。鍵が見当たらなければ紛失したとして不審に思われる。
 担当者はそううそぶいてマンションを後にする。
 これが妄想の全て。

不忍池の蓮の花は、今年も美しい花を咲かせただろうか。悪しき妄想に振り回されたあの夏から、早くも三年の月日が過ぎた。
 蓮は泥水をすすって清らかな花を咲かせるが、私の心に淀んだ悪しき妄想は真実の花を咲かせられず、実を結ぶこともなかった。

後日私は、マンションの販売管理会社に何度も電話を掛けたが、担当者と連絡が取れなかった。後日、担当者は私が電話を掛けた数日後に行方不明となり、会社でも連絡が取れないとして、「解雇処分にした」と聞く。

蓮の花  -終了-
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