嘘だまり

揺れる大地 -その5-

――このまま追い落としてしまえば行方のわからぬショウゾウをすぐに助けられなくなる……
 ショウゾウを一刻も早く助け出したい老人は崖の反対側の枝道を少しずつ閉じ、行方を白状するまで男をじりじりと追い詰めていくことにした。
「お前さんが半時程で行って戻ることができたのじゃから、そんなに遠くまで行っていないはずじゃ。ショウゾウのいる所を言えば無事に帰してやる。ショウゾウはいまどこにいる」
 老人が問えば、
「わしの知ったことか。そこまで知らん」
 けん介でもある男は唾を吐き出すように言い、「下手な策を弄しやがって」と怒鳴り、このままでは逃げきれないと思ったのか、突然持っていた杖を振り回し始めた。男の馬鹿力で振った堅い杖の先が当たって嘘だまりは再び破れる。貼り付けてある景色が破れて吹き飛び散乱したので、
 幹の裂けた大木が転がり、
 山肌はえぐれて崩れ、
 道はひん曲がり、
 背筋が寒くなるほどすさまじい景色になった。仕組んだ老人でさえどこまでが嘘だまりの景色で、どこまでが本当の景色なのか見分けがつかないほど。
 だが事はそれだけで済まなかった。いつもならばカメラとは枝道で繋がれているので大切なカメラは離れた所へ置いているが、今は枝道を断って使ってしまった。新たな枝道を作ってつなぎ直すには時間と手間がいる。ばかりか、男は先ほどの騒動でカメラの仕組みに気付いたようだ。そうなるとなお更、カメラを身辺から離すわけにはいかない。
 その身近に置いたカメラを奪い取ろうと、男は杖を振り回した。崖ぎわの狭い所で振り回すものだから、杖が岩にぶつかった衝撃を喰らって体のバランスを崩したのか、「ぎゃぁ……」というわめき声と一緒に谷底へ真っ逆さまになって落ちて行った。
 一方、男の杖に当たったカメラは「あっ」と言う間も無く吹き飛んで岩にぶつかった。 幸いにしてぶつかった岩は嘘だまりに貼り付けた景色の一部だったので、カメラにたいした損傷はなかったがそれ以来、カメラは危ない目にあわせた老人を信用しなくなったのか、思った像を素早く結んでくれなくなった。
D1346.jpg
  
usodamari
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素姓乱雑
Posted by素姓乱雑

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