嘘だまり

揺れる大地 -その4-

 男の豹変を知った楓はショウジを背にしてかばったが、男の力に敵うわけがない。楓の細腕を掴んだ男はにやけた顔で後ずさりする楓とショウジを崖ぎわに追いつめていった。無論、崖は嘘だまりに貼り付けた景色で見せかけだから突き落とされる恐れなどまったく無いが、崖ぎわに追いつめても何ら変化がないと分かれば、男は別の手段を使って危害を加える恐れがある。
 また男の目的がカメラと、そのカメラに命を吹き込んだショウジにあるようだと知った老人は途方に暮れた。老人はカメラとの生命線ともいえる枝道をすでに切り離している。万一カメラを奪われ悪用されることがあっても防ぐすべはなく、永遠に手元へ戻ってこないかもしれない。
 そのとき拵えた嘘だまりは枝道の両端を繋いで同じ所を回るように仕組んだ単純なもので、人を惑わせる仕掛けなどない。男と楓の間が離れてでもいれば使い残した枝道を迷路のように繋ぎ、そこへ男を追いやることも不可能でないが、それもカメラが手元にあればの話しである。楓の細腕を掴んだいまはカメラどころか男に近づくことさえできない。
 老人がどうしょうかと悩んでいるとあり得ないことに、丈夫なはずの嘘だまりが突然裂けた。枝道を膨らませて大きくした嘘だまりだから強度が足りず、堂々巡りで何度も踏み付けたから持たなかったのだろう。 
 だが今はそれが幸いした。
 思わず身を縮めるような 「パン!」という破裂音と共に目の前にそれまでと違った景色が突然現われ、男が唖然として眺めている間に、ショウジに駆け寄った老人は首から下げたカメラを受け取って新たな嘘だまりを拵え、男から引き離した楓とショウジを拵えたばかりの嘘だまりに逃れさせることができた。
 老人は急いでもう一つの嘘だまりを拵え、男が嘘だまりから逃げられないように裂けた嘘だまりを新たな嘘だまりで覆い、嘘だまりの先を本物の崖の上まで伸ばして男を追い詰めることにした。男には申し訳ないが後腐れの無いように、男自らが谷底に落ちるように仕向けるつもりでいたが、崖ぎわまであと僅かという時になってショウゾウの行方を思い出した。
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usodamari
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素姓乱雑
Posted by素姓乱雑

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