嘘だまり

蓮の花(3)

2016年11月07日
蓮の花

思い浮かべていた昨日の出来事から戻つて視線を転じれば、蓮の花の向こうに弁天堂が見える。今日は曇っている分だけ蒸し暑い。

このあと私は不忍池を離れて、予定通りに兄が住んでいたマンションを訪ねて冥福を祈るつもりでいた。署で保管しているマンションのカギは受けとらなかったが管理人とは話が通じたので、訪ねれば部屋は無理としても、マンションの中に入れてもらえることになっている。もし管理人と会えなくても、兄が住んでいたところの雰囲気を知ればそれで良しと思った。

兄の孤独死が分かったきっかけは部屋隣に住む看護師さんの嗅覚だった。職業柄、匂いでピンときたという。その方にお世話になったお礼を言わなければならない。

それにしても……、兄が音信不通になったのはなぜか?、弁天堂を眺めていた私は、ささいな疑問にとらわれた。

署で確認したが、兄が倒れていたのは風呂場。一般的に、入浴中は人が訪れないように玄関のカギをかけると思うが、玄関のカギは掛かっていなかったと聞く。

マンションを買った時の高額ローンが残っていて、ローンを組んだのは50歳を過ぎてからになっていた。50歳を過ぎてローンを組んでは壮健なうちに払いきれないだろう。ましてや兄は独り身、誰とも音信不通を貫いたので保証人はなく、払いきれる保証はなかった。

この件でいろいろと確認したいことが有り、マンションの販売管理会社に電話をしたが、担当者が不在とかで、いまだ連絡は取れていない。

気丈でいたつもりだが、昨日一日の諸々は精神的にこたえたようだ。蓮の花をみて一時は清々しい気分になったものの、美しい花を咲かせる蓮の根元が泥水で満ちているように、体の芯にはどんよりとした疲れが淀んでいた。その疲れが悪しき妄想を呼び込む。

関連記事