嘘だまり

隠された家 -その3-

2018年05月27日
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このカメラのすばらしい機能は分かるが、この先、目の役割を続けるためにカメラの中へ閉じ込められたままになるのだろうか?。
 翔司の心に新たな不安が広がった。
「カメラの目とお前さんの目が枝道でつながってさえいれば、たとえカメラと離れていても目の役割をこなすことができる。カメラの中にいる必要はほとんど無い」
 老人は明快に否定して翔司の不安を吹き飛ばした。
 ふいに、ファインダーを覗いていた子どもが嬉しそうな声で二人の話を遮った。
「お母さんこのカメラ、いつの間にか治ったみたい」
  子どもがカメラの向ける位置を変えたようで、先ほど翔司が写そうとしたカエデにレンズの先が向いている。なぜか、翔司が先ほど見た時よりも一回り小さく見えるカエデ。その後ろにある広場には何も無かったはずなのに今は小奇麗な平屋の家が見える。
 玄関先の手入れの行き届いた庭では放し飼いになった数羽の鶏が、首を前後に振りながら二~三歩進み、地に落ちている餌をついばむといった一連の動きを繰り返し、そのお裾わけにあずかろうと、数羽の雀が数倍も大きな鶏から少し離れた位置で群れているのが見受けられた。高度経済成長期が始まる前は自給自足を主としていて、鶏卵の値段は高く鶏の放し飼いなどあたりまえに見られたものだが、鶏卵は物価の優等生と言われる昨今では見かけなくなった光景。
 この光景、どこかで見たことがある。
 そういえば……、写真集に載っていた一光景だ。すると、聞いた話ばかりか、いま見ている景色も嘘だまりに仕掛けられたものではないだろうか?
 翔司は目にするすべてが老人の仕掛けた世界の中のできごとのように思われた。

 
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素姓乱雑
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