嘘だまり

隠された家 -その2-

2018年05月20日
嘘だまり 0
 

老人は悔しそうに言い小さなため息をついた。
「こしらえた、嘘だまり?」
 再び、翔司は分からない思いに包まれた。
「すまん、話しが後先になった。このカメラは無いものを在るように見せかける空間を仕組むことができる」
 事もなげに老人は言い、
「その仕組んだ空間をわしは〈 嘘だまり〉と呼んでいる。今さらの種明かしをするが、お前さんの見つけた枝道は嘘だまりそのもの。その嘘だまりの中に入ってお前さんの見た景色はすべてわしの撮った作品なんじゃ」
「枝道で見た景色のすべては老人の作品ですか」
 昭和の高度経済成長が始まる以前の自然と折り合いをつけた懐かしい景色など、今ごろどこにも残っていやしない。やはり翔司を誘い込むための罠だったのだ。
「嘘だまりは何も先ほどの枝道だけではない。先日、お前さんが訪ねた本屋にも店に合わせた嘘だまりが仕組んであり、それら嘘だまりのすべてはこのカメラと通じている」
「あの時の不可解なできごとも、仕組んだものだったのですか」
 本屋でのできごとは最初からどこか変だ、と翔司は思っていた。だからといって、全てが老人の作品で仕組んだ嘘だまりの中で起きたできごとだと明かされても、にわかに信じがたい。
「年寄りのこのわしに、これだけたくさんの嘘だまりを作るのは大変な作業。じゃからこの日の来るのがずいぶんと待ち遠しかった」
 翔司が枝道に入ってから見た景色に写真を見せられているような……と、感じたのは間違っていない。だが、老人が持つ撮影の腕前はすばらしいもので、見せられたものは景色だけではなく音や時間までも取り込んでいた。翔司も一時は取り込まれそうに思われて怖くなったほどだ。
「わしも同じように貼り付けた景色を見せられたが、そうと明かされるまで写真と気づかなんだ、だから、お前さんも分からないだろうと侮ったが、お前さんは景色を見るうちに写真と見破った。どうやらこのわしは景色を捉える事ができても、実像と虚像を見分ける力は劣るようじゃ。そのわしに比べて見分ける目を持つお前さんは、わしよりもいい働きをするに違いない」
 老人は悔しそうに言うが声に陰りは無かった。

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