嘘だまり

隠された家 -その1-

2018年05月13日
嘘だまり 0

不思議な「写狂老人」に出会った日の、不可解な一連のできごとを頭の中に描いていた翔司は、「カメラの中にいる」と老人から言われたことに気づいて急に不安が戻ってきた。


-隠された家-


老人は得心のゆくように語り始めた。
「お前さんは招いたカメラの中ですでにカメラの目となって、いろんなものを眺めている」
「えっ、目となって!」
「先ほど、お前さんの目に大写しとなった子どもの顔がぼやけたり鮮明に見えたりしたじゃろう。それはな、子どもがカメラの焦点をいじったからなんじゃ」
「子供が焦点をいじったから?」
「そう、カメラにはレンズを通した像の焦点が装填したフイルムに合うように、調節できる拵えがあるのをお前さんも知っているはず。それをいじると目の役割を担うお前さんの目も連動して、焦点が移動する仕組みとなっている。つまりじゃ、お前さんが見たものそのままを、フイルムに現すことできるということじゃ」
 老人はカメラの不思議な機能を打ち明けた。
「見たものそのままをフイルムに?」
「そればかりではないぞ、このカメラはお前さんが感動したことをフイルムばかりか、人の心に現すことも不可能でない」
 老人の話すことは、絵空事の世界を描くような思いもしないものだった。翔司も聞かされた初めは驚くことさえ忘れて聞いていたが、カメラの不思議な機能が明かされるにつれて、老人の話しに興味を持ち始めた。でも、カメラに備わった不思議な機能はそれだけではなかった。
「時に、お前さんには済まないことをした」
 姿の見えない老人が詫びた。
「お前さんを招くためにこしらえた、嘘だまりに仕組んである景色がずれてぼやけてしまった。その上、お前さんが先を急ぐので直す間がなかった。わしはお前さんにあのような濁った灰色の景色を見せて、驚かせるつもりはなかったのじゃが……」


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素姓乱雑
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