嘘だまり

不思議な店 -その9-

2018年05月06日
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「印画紙に浮かび上がる景色は、作為を持たずに有りのままを写し取った夕焼け。それが作品に穏やかさと優しさを与え、実に神々しいものがあった。それに比べると、わしの作品は貪欲に像を取り込もうとするなど雑念が多い。それらが像の所々に現れ、ざらついて見る者を背けさせてしまう。撮った写真を比べられて困るのはわしの方なのに、少しも気づかなかった。この時になってわしは、他人を貶めてはならんと気づいたのじゃ」
 だが、老人は一転して、
「わしの心を傷つけないように慮ったふりをして、メモ代わりに取り比べの写真を使うなど、さりげなく応じるあいつは、端からかなわぬ相手であった。わしはその時から自戒の意味を込めて、今の名前を使うことにしたのじゃ」
 悔しそうにつぶやいた。

 
――初めて会ったとは思えないほど親しみがある不思議な老人。不可解なできごとに満ちた不思議な店。翔司の手に持つカメラが、「よもやま話など、もういいだろう」と老人を見上げ、風もないのに、「パタッ」と音がして写真集のページがめくれ、翔司が目をやれば、現れた写狂老人の顔写真が「すまん」と、首をすくめてみせた――
「名乗るのが遅れたが、わしは写狂老人。どうやら願った通りになるらしいの」
 ついでなだめるように、翔司が手に持つカメラへ目をやる。
「わしも老いたか、そのカメラを思ったように使いこなせなくなった。そのようなわしの手元で、これだけすばらしい機能を持つカメラを、使わないままに埋もれさせてしまうのは誠に惜しい。カメラの奴も使われじまいでは淋しい思いをするだろうし、機能のすべてを忘れることにもなりかねぬわい」
 カメラの来し方、行く末について話し始めた。
「じゃがカメラは、『誰かに譲るとしても、新たな持ち主との相性を確かめてからにして欲しい』と言い張るので、先ずは写真集に人を選ばせ、次いでわしが、カメラの持ち主となるのにふさわしいかを確かめることにしたが……」
 老人は話を継いだ。
「改めて確かめるまでもなかった。普段は人見知りをするそのカメラが珍しいことに、お前さんをずいぶんと気に入ったようじゃ。お前さんがわしに代わって慈しんでくれるなら、写真集と合わせてカメラも託そうと思う」
 譲ると決めた老人は「そのカメラはわしの分身のようなもの」と、寂しそうな口調で付け加えた。
「じゃが、条件と言っては何じゃが、後日、力を貸してくれんかの。その時に合わせてカメラの持つ機能のすべてを教えよう」
 後日と言われても老人の居所が分からないのでは連絡の取りようがなかった。
「その時が来ればカメラが案内してくれる」
 なぜか「ニヤリ」とした老人は、曰くありげにカメラを指し示した。

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素姓乱雑
この記事を書いた人: 素姓乱雑
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