嘘だまり

蓮の花(1)

2016年11月05日
蓮の花

その日、今にも泣きだしそうな空の下を散策していた私は、近くに不忍池が有ると知り、訪れてみる気になった。

池畔に立つ私に見えてきたのは池一面を覆う蓮の葉。その間に開いた清らかな花を見ていると、心が洗われるような気がする。不忍池の花はやはりご縁があったようだ、来てよかった。私は蓮の花に向かって心の中で手を合わせながら、昨日一日の出来事を思い浮かべた。

不忍池の蓮の花

長らく音信不通でいた一人住まいの兄が亡くなったという知らせが警察から入り、身元確認及び事情聴取などに応じるため、早朝の列車で富山から東京に向かったのは昨日のこと。

地理不案内の東京へ私一人で来るのは初めて。あらかじめ教えていただいた通り東京駅で降りて総武線に乗り換え、最寄りの駅からタクシーで遺体のある署までかけ付けた。

署の受付で名前を告げると担当の方が見えられ、ご挨拶のあと身元確認となった。
「発見当時の写真です。あまりお勧めできませんが見ますか? 死亡してからの日にちが過ぎ、夏ですから腐乱して少々分かりにくいかもしれませんが」
「確認します、見せてください」
「見ていて気分が悪いようでしたらすぐに言ってください」
「大丈夫です」

見せられた写真はふろ場に横たわる男の遺体。腐乱した肌とは対照的に、顔一面にぼうぼうと生えた生々しいばかりの無精ヒゲが目に付く。

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