嘘だまり

不思議な店 -その5-

2018年04月15日
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肖造の姿勢が「決めた」から「請う」に転じた。
「今さらですが、あなたはこの写真集をとても気に入っていただけた」
「ええ、実にすばらしい写真集ですね」
「そして……、お金なんかで行き先を左右されるものかと、自ら発行元や価格表を外してしまうほど気ぐらいの高い写真集があなたに好意を持った。今までに無く珍しいこと」
「……」 
「今まで気に入った持ち主が見つからないために我々をずいぶんと振り回した写真集ですが、大事にしていただけますか?」
「喜んで! ずっと大切にしたい」
「では改めてお渡しします」 
 肖造は両手で持った写真集の「天」を翔司に向けて差し出した。
 翔司はあきらめかけた写真集が手に入ることになって喜んだ。話が無事にまとまりホッとしたからか肖造の表情も緩む。このあとは雑談になった。
「最近、どのような写真を撮っています?」
「今はカメラを持っていない」
「今は、ということはカメラを持っていた時期があるということですね。持たなくなってから今まで、カメラを欲しいと思ったことは?」
「欲しいと思ったが、訳があって買う気持ちになれなかった」
「それはとても残念なことです。でも撮りたいと思う気持ちはいまも有るのでしょう?」 
「撮りたいと思う気持ちならば、いまも変わらずに持っているが……」
「今後、買うとしたら、どのようなカメラが欲しいと思います?」
 肖造は「撮る」から逸れて「カメラ」そのものに踏み込んできた。
「余裕があればの話だが、買うとしたら」 
 なぜそのようなことまで聞くのだろうか? 翔司は途惑いながらも好みの機種を答えた。それらを聞き出した肖造は、
「お引き合わせしたい方がいます。しばらくお待ちください」
 肖造は入ったときとは別の出入り口からすばやく部屋を出て行ってしまった。
 肖造の姿が扉の向こうに消えてしまい、翔司は殺風景な部屋の中を改めて見回していたが、ふと背後に誰かがいるような気配を感じて振り返った。


 
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