嘘だまり

不思議な店 -その4-

2018年04月08日
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店員は扉を確かめ終えると、部屋の中央に設しつらえられた机の上に写真集を置き、内ポケットから名刺を取り出して翔司に渡し、「○◯肖造です」と名乗ったあと椅子を示して座るように促した。
向かい合った椅子に腰を掛けた店員は事務的な口調で名前と住所をたずね、翔司の答えを手元の紙に書き込んだ。その後で、お茶の準備を始めた。
 お茶を飲んでそれぞれに一息入れたところで、肖造は写真集を示して本題に入る。その頃には翔司も落ち着きを取り戻していた。
「率直に言いますと、この写真集は私家本だから非売品なんです」
「写真集は私家本?」
「よく見ていただくと分かりますがこの写真集は本来ならば明記すべき発行元の表示などがどこにも見当たらない。無論、価格も表記していないので当店ばかりかどこの店でも扱えない書籍です」
「そんな! 私家本とは気が付かなかった……」
「変ですね? この写真集は稀に見る質の高い書籍ですから、買うとなれば真っ先に価格などを気になさるはず」 
 肖造は不思議そうな顔で翔司を見た。そう言われてみれば確かめた記憶が曖昧だ。
「内容に惹かれて買いたいと逸り、確かめるのがおろそかになったようだ」
「写真集の内容を目にされたのは今日が初めて?」
「そう、ここで、いま初めて中身を見た……」


 しばらく肖造は机上の写真集を見つめて考えを巡らせていたが、やがて両手のひらをひざに打ち付けて、「決めた!」という雰囲気を浮かばせた。
「あなたを信じて打ち明けますが、この写真集は自らの行き先を選ぶためにどこへでも出没して私たちを困らせました」
「行き先を選ぶためにどこへでも出没した?」
「そうなんです。本屋の中にはとうに行き場を無くした本が何冊かありまして、それらが時たまいたずらをするんですよ」
「すると、先ほど私が入った第二売り場も?」
「それは、あなたがご覧になった売り場を私は見ていないので何とも言えませんが、ともかく、成り行きを推し量れば、この写真集はあなたに好感を持ったようです」
 しみじみとした口調の肖造。
「この写真集が?」
 状況は一変して、写真集に感情があるかのような擬人化した話しの内容に翔司は戸惑った。
「はい。その証として、いつもならば現れたとしても相手が気に入らなければすぐにどこかへ消えてしまうのに、未だ消えないでここに残っています」

 
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