嘘だまり

不思議な店 -その3-

2018年04月05日
嘘だまり 0

だが、男性店員は写真集の裏表を確かめながら考え込んでしまった。
「お持ちになられた写真集は、本当に、当店の売り場に並んでいた品物でしょうか?」
 疑わしげな視線を翔司にかざす。間を置いて、
「この写真集は当店で扱わない書籍ですので、お会計はできません」
 店員は妙なことを言ったが、他には誰もいないのに人目が気になるのかことさら穏やかに聞いた。
「この写真集は売り場に並んでいたということですが、どの場所に並んでいました?」
「あそこにある第二売り場だが……」
 翔司は、なぜそのようなことを聞かれるのか分からないまま、いま来た方角を指差した。
 店員は差された方角にチラッと視線を向けたが、
「写真集が置いてあったという場所までご案内いただけませんか」 
 店員は写真集を持ったままで、翔司に先を行くように促して付いて来る。真ん中の通路が見える辺りまで来たところで、翔司は立ち止まってしまった。
「あれっ? 確か、あそこに……」
 翔司は瞬きを繰り返したが、壁ぎわの棚は途切れることなく奥まで延び、間に有った第二売り場の入口などどこにも見あたらない。思いがけないありさまに物事を判断したり行動したりする能力が吹っ飛んで頭の中が真っ白になった。
「確か、ここら辺に入口が有ったはずだ」 
 店員がいるのも忘れて、第二売り場の入口が有った辺りに駆け寄った翔司は繰りごとを口にしながら、棚を撫で回したり押したりしてみるが、本を乗せた重い棚が動くはずもない。
 そのうちに、店員の視線に気づいた翔司は、腋の下や背に冷や汗が滲むのが分かる。幻を見たという顔付を隠せないまま店員に視線を移した。
 それまで無言の店員は、当然、翔司を不審者扱いするだろうと思われたが、意外にも「さもありなん」という表情を見せた。
「お話ししたいことがあります」
 騒ぎが起きたというのに沈着な物腰の店員は表情を変えることもなく翔司を手招きした。
 店員が入るように勧めた部屋の入口は真ん中の通路の延長線上で、幻のように失せた売り場の向かい側なのだが、頭の中が真っ白で操られたような翔司の目に映っていない。
 翔司に続いて部屋に入った店員は写真集を小脇に挟み、「扉の閉め忘れ」がないことを確かめるためか、両手で握った扉のとっ手を何度か押し引きした。そのたびに「カタカタ」音が部屋内に響いて空気が乱れるからか、辺りが歪んで見えた。
 このときの翔司は無論知らないが、真ん中の通路の延長線上にあった部屋の入口は先ほどの第二売り場の入口と同じように、かき消すように見えなくなった

 
関連記事

コメント0件

コメントはまだありません