嘘だまり

かいこ(7)

2016年11月04日
かいこ

十二年前に何が起きたというのだ?
 翔梧はその時から過去を失ったと気付かぬまま十二年という月日を過ごしたことになるのか。
「夢で見るからには現実という下地が有るからだ。家の前に出て通りを眺めれば当時を思い出すかもしれんな。で、夢の続きは出てこないのか?」
 男はじっと翔梧の顔を見た。「隠しても知っているぞ」という顔つきだ。翔梧の心に不安を積み重ねてゆく。
――過ぎた日々を明るみに出してどうしょうというのだ。男は兄であるとしても今まで通りに蚕子そして絹子と繭子の家族を守り、翔梧は翔梧で生きてゆけば、それでいいのではないか。

執拗に「兄」と知らしめたい男の真意は何か、翔梧は次第に、「男を兄と呼び、出会えて良かった」で済まされそうにない気がした。
 今や男は、先ほど「兄だ」と言った時の雰囲気と違い、まるで人が変わったようだ。
「話せないようだったら、俺が夢の続きを見せてやる」
 翔梧の心を覗くかのように目つきは鋭く底意地の悪い顔付きをする。
 翔梧は飲みすぎたのか頭の芯がくらくらした。
「お前が今まで飲んだのは過去を辿る酒だ。すでに12本は過ぎた」
 見れば翔梧が飲んだ銚子は区分けしてあり、男は散らばった空の銚子を卓の上にまとめながら言った。

 酔いが酷くなったのか意識がもうろうとなった。泣き顔、笑い顔、思案顔の翔梧を春、夏、秋、冬の四季が取り巻き、せんとなって通り過ぎるたびに容赦なく翔梧をもてあそんだ。

それらを12回ほど繰り返してほんろうする四季から解き放されたと思えば、翔梧はぽっかりと開いた底知れぬ穴へ真っ逆さまになって落ちていった。

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