嘘だまり

不思議な店 -その1-

2018年03月21日
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その日久し振りに隣町まで出かけた翔司は、買い物を済ませた後の中途半端に余った時間潰しに、立ち読みでもと思って本屋を捜した。それが、老人と会った日に起きた「不可解なできごと」の始まりだった。




-不思議な店-



日曜日ということもあって二月の冷たい風が吹く街中でも、春を待ちきれない人たちが歩道を行き交っている。どこかのんびりとしたそれらの人たちに歩調を合わせながら本屋を探していた翔司は、歩道からわずかにそれた所にある店を見つけた。
 その店はさして目立った本屋ではないが、ショーウインドーを兼ねた窓に、某有名作家の名前と本のタイトルを記した広告が貼られ、見本として数冊置いてあるので本屋だとわかる。それでも窓越しに何人かの姿が見えた。
 開いた扉を店内に入って閉めると、吹きつけた北風が止んで店の中は生暖かい。扉の脇に設けられた精算所の前を通り抜けて売り場を見渡せば、両壁を背にして並んだ棚列、その間に背中合わせの棚列。合わせて三列の商品棚が並んでいて、棚の間を二本の通路が奥まで延びている。立ち読みする人の間をすり抜けて奥に向かった翔司は、途中で二本の通路をつなぐ真ん中の通路に行き着いた。
 その真ん中の通路に立ち、「このまま奥に進むか」「反対側の通路を通って戻るか」を思案しながら真ん中の通路の先に目を遣った翔司は、棚列が途切れてむき出しとなった壁を見た。
 先ほど翔司は壁際の棚に並んだ本を覗きながら来たが、間違いなく棚列は途切れずに奥まで並んでいたはずだ。振り返って反対側の通路の先を確かめれば同じように壁が剥き出しとなっている。
 なんだ勘違いだったか、それにしても不思議な店だ。
 広くはない売り場に配置された棚に沿う通路は「日」の形で用が足りた。それが、限りある売り場の中の貴重な壁ぎわの棚列にわざわざ間を設け、行き先もないのに通路を壁ぎわまで延ばして、「」の形にしているからだ。
 なぜ真ん中の通路を、使いどころのない壁ぎわまで延ばしているのだろうか。
 不思議な通路に気を取られている間に客が途絶えたのか店内に誰一人として見えない。人目が消えて訪れた気軽さが翔司の後押しをした。
 不要とも思われる通路に立ち入った翔司は一瞬、辺りが歪んで見えた。足もとを風が吹き過ぎ、目をやれば意外にも床に「 第二売り場入口」の表示。堅固な壁に見えたが向こう側から微かな明かりが洩れる。壁をよく確かめれば押し扉があり、押して中を覗けば本が並んだ棚が見えた。

 
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