嘘だまり

出会い -その5-

2018年03月11日
嘘だまり 0

それでも何度か試みるうちにようやく像が定まり、シャッターを押したその時、陽が陰る。思わず空を見上げた翔司は全身を光に貫かれ、辺りが歪んだような奇妙な感覚に襲われた。


「しょうちゃんいけないわよ、お爺さんの大切なカメラを、そんなところに置いては」
「ごめんなさい」
 優しくたしなめる女性の声と幼い声。
「ねぇお母さん、お爺さんは今どこにいるの?」
「ほんに、どこへ出かけられたのでしょう。でもすぐにお帰りになると思うわ、だって、大切なカメラがここにあるのですから」
「お爺さん、早く帰るといいよね」
 お母さん、しょうちゃん? 小さい頃にどこかで聞いたことがあるような声。
 翔司は奇妙な感覚から抜け出たと思ったが、思いがけないことが次々と起きた。
 駆け寄る子どもの姿が見えたすぐ後で翔司は軽々と持ち上げられる。目いっぱい大写しとなった子どもの姿に、「ごめんね」と言われながら愛おしそうに撫でまわされ、その子どもの姿がぼやけたり鮮明に見えたりした。その見える姿と全く違う方角から老いた声が聞える。 
「驚いたじゃろう、お前さんは今、カメラの中にいる」
「えっ、カメラの中に?」
 そんな馬鹿な!、貪欲な景色から逃げ切れずに捕まってしまったか。青ざめた翔司は声の聞こえた方角に視線を向けようとしたがままならない。
「あなたは誰です?」
「わしはな、お前さんに写真集とカメラを託すと決めた老人じゃよ」
「えっ、あの時の……」
 出逢った白髪の不思議な老人とその日に起きた「不可解なできごと」が翔司の頭の中に蘇った。


 
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素姓乱雑
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