嘘だまり

出会い -その3-

2018年02月25日
嘘だまり 0

枝道に入ってそれほど遠くまで来ていないと思ったが、深い山の中へ分け入ったように、絶えずに聞こえた生活音や車の騒音などがいつの間にか途絶え、辺りは雑木が多いにかかわらず葉擦れの音や小鳥のさえずりなどがわずかも聞こえてこない。音をたてることが憚られるほど静か。
「ドクッ、ドクッ」
 森閑とした中で翔司の鼓動がやけに大きく聞こえた。あたり一面を覆う薄暗がりと静かさに押し潰されそうで、息苦しくなった翔司は一人でいるのが不安になり、人の姿を求めるうちに、目の前に見える景色もいぶかしいと気づく。

 珍しい景色はまるで時間を断ち切った絵のように、そよいだ梢は傾いだままで動きをとどめ、枝を離れたわくら葉は舞い落ちる途中でとどまり、小川に新たなさざ波が立つことはなかった。
「まことの景色だろうか?」
 よく見れば、景色は平面で奥行きがないくせに音や時間までも取り込みさらに、生き物を取り込んで景色を膨らませようと、ありもしない景色でこしらえた罠を仕掛け、待ち構えている気配がする。
「ここで取り込まれてしまうと絵の一部にされてしまう」
 怖くなった翔司は戻ることも考えて今来た道を振り返れば、それほど遠くまで来ていない道の先が、ピントのずれた像のようにぼやけて見えた。
「ガサッ、ゴソゴソ、ストン」
 突然の物音。ぼやけた部分が四方を濁った色で染めながら翔司に迫ってきた。
「うわぁ!」 
 くすぶっていた不安を燃え盛るまであおられた翔司は退路を断たれて戻ることもできず、道の先を急いだ。
「ま%#@\**!?
 濁った色が何事かを叫び、広がりを速めて生き物のように迫ってきた。
 追われた翔司は懸命に走った。
 首に掛けたショルダストラップが水平に伸びてつながったカメラが空を泳いだ。
 夢の中で追われるのに似てぎこちなく思いどおりに動かない足、気配が肩越しに迫っている。

 
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素姓乱雑
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