嘘だまり

出会い -その2-

2018年02月11日
嘘だまり 0

軽やかな動きを一瞬に閉じ込めたような、しなやかな姿のカエデに魅せられて歩み寄り、幹を撫でれば人肌に似た温もりが内から溢れて翔司の心をなごませた。
 幹の温もりに触れてふと人恋しさを覚える翔司の耳に、かすかなささやき声が聞こえた。声に誘われてカエデの後ろに目を遣れば、生い茂った雑木の間から枝道が見えてくる。時としてこの辺りを散歩道としている翔司はすべての枝道を知りつくしたつもりでいたが、辺りを覆うように茂った雑木の日陰になり今まで気が付かなかったようだ。
 見えた枝道のまわりには小川や生い茂った雑木などが自然のままで残っている。翔司の心に、「思いがけなく珍しい景色が撮れるかもしれない」という期待と、「この道はどこまで続くのだろう」といった興味がわいた。ささやかな冒険心が芽生えた翔司は誘われるように、新しく見つけた枝道に靴先を向けた。
 枝道に踏み出すとすぐに道の上まで伸びた雑木の枝が翔司の頭上を覆い、先ほどまで降りそそいだ春の暖かい日差しを遮り、あたかも洞穴の中に入ったような寒々とした印象を与えた。辺りが急に黄昏のような暗さになったからか、一瞬、空気が歪んだようにも感じる。日中でも薄暗く見通しが利かないというのに、街はずれの道だからか、街燈の明かりが一つも見えない。
「どこへ行けばいいのだろう?」 
 まぶしい太陽の下から来た翔司は慣れない薄暗がりで不安になり、次の一歩が踏み出せないまま落ち着きなく辺りを見渡した。


やがて、薄暗がりに目が慣れた翔司に見えてきたもの、それは、目の前で急斜面となって立ち上がった崖。その崖を今にも駆け上りそうなくらい勢いよく生い茂った雑木と笹。それらの根元に積み重なって残った湿っぽい落ち葉など。
 急斜面となった所々で積み重なった落ち葉が崩れ落ちて土がむき出しとなり、痩せた草がわずかばかり生えていた。斜面の下にはささやかな土手があり小川が流れていて、わずかばかりに土を盛った土手は人手を加えて川の流れを変えようとした形跡は見られない。その柔らかくてもろい土がむき出しになった土手も、雑木はわが物にしようとしていた。
 雑木の間から延びて流れる小川は地形の成すままに添って蛇行する。飛び越せそうなくらいに幅が狭い小川は土手に添っていたが、翔司の立つわずか先で土手は途切れ、道に添って流れた。
 小川の所々でさざ波が立ち、流れがくねった先では川底がえぐられて深くなったのか流れが淀んで深い青色に変わっていた。岸辺には銀白色の毛が膨らんだ猫柳が見える。
「ジャリ!」 
 あたりの眺めながら立つ位置を変えると、靴裏で小石を踏んだ感触がある。翔司は今さらながら、歩いて来た道が舗装のしていない砂利道だと気づく。
「懐かしい景色だなぁ~」
 昨夜見た写真集の景色と同じように、冷たい灰色のコンクリートを使った構造物がわずかも見られない。自然との折り合いをつけた、昭和の高度経済成長が始まる以前の景色がどこまでも広がっていた。
 翔司の住む近くでこれほどたくさんの、雑木が生い茂った自然が残っているなどと聞いたことがなかった。珍しい景色に喜んだ翔司はカメラのレンズの先を周りの景色に向け、盛んにシャッターを切っていたが、そのうちに様子が何だか変だと気づく。

 
 
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