嘘だまり

かたみ分け(8)

2017年11月07日
小説・かたみ分け

後日翔平は父から、「親戚の誰もが、加奈に同情を寄せる素振りを見せるが、持ち去った物は返してこなかった」と聞く。この騒ぎで翔平は叔父の形見を貰いそびれたが、心に衝撃を受けた加奈を間近で見ているだけに、「欲しい」と言い出せなかった。

嵐のような形見分けの騒ぎがうやむやになって静まった頃、翔平は加奈と約束した「押し入れの修理」を思い出した。
 翔平は、「義理の叔母と甥という間柄に留まらない」と察する父に、戒められるのを承知で修理の件を打ち明けると、「親戚どもが起こした狼藉の罪滅ぼしにはとても足りないが、何もしないよりはいいだろう」と言っただけで、呆気なく加奈の家に行くことを認めた。

翔平は修理の日と決めた前日に必要な材料を求めて別便で加奈の家へ送り、修理の日は手ぶらで加奈の家へ向かった。梅雨の中休みなのか、昨日までの雨が上がって眩しい日差しがそそぎ、翔平は今までになく心弾むものがある。

貪欲な親戚たちも、納戸だけは気づかなかったようで、大工道具は形見分けの騒ぎから逃れていた。戸を開けて棚から取り出すと几帳面だった叔父らしく、道具は丁寧に仕舞われていてサビ一つ浮いていない。翔平はそれを使って棚の修理を始めた。仕事は思いの外、捗る。

 

加奈はその間、翔平に振る舞う昼の食事を作るため台所にいた。
 階下から食欲をそそる匂いが翔平のいる部屋まで漂い、げんのいい加奈の鼻歌が聞こえてくる。その鼻歌が近づいたと思うと、加奈の姿が現れた。
ざん休憩!」
 おどけたような命令口調で加奈は言うと、飲み物とお菓子が乗ったお盆を翔平の近くに置いた。
「どう、捗っている?」
 思わせぶりに体を寄せて修理中の個所を覗き込んだ加奈から、先ほどの食欲をそそる匂いと違った、ふんわりとした優しい香りがする。その加奈の上げた顔が眩しいくらいに輝いていた。
「すごい! 翔ちゃん器用ね。もう終わりそうじゃない」
「あゝ、この調子でいけば、昼前に終わるかも」
「じゃ、お昼はゆっくりと出来るわね。翔ちゃんの好きなものをたくさん揃えているから、期待していいわよ」
 片眼をつむって見せ、気を持たせるようなしぐさを見せた加奈だったが、翔平が何かを言う前に背を向けた。心に波風を立てる加奈の気持ちをはかりかねた翔平は苦笑しながら、部屋を出て行く後姿を目で追った。

  
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