嘘だまり

かたみ分け(7)

2017年11月01日
小説・かたみ分け

翔平は冷たくて硬い床にうずくまる加奈を抱き起こそうとした。その翔平に心を失った加奈がいきなりすがりつく。翔平は加奈の心を取り戻すべくそっと抱きしめた。

言い表せないほどの衝撃を受けた加奈は翔平の腕の中にいても、震えが止みそうになかった。子供をあやすように加奈の背を撫でるうちに、翔平の心がしきりに騒ぐ。

ようやくに震えが治まった加奈は、
「あの人の思い出を、何もかもさらうように持っていってしまった……」

加奈の目は虚ろで抜け殻にも見えた。いまは翔平がどのような言葉をかけても加奈の心に届かないだろう。加奈の心を癒すにはどうしたらいいのか思い詰めるうちに、騒ぐ心に突き動かされた翔平は唇を加奈の唇に重ねた。
加奈は一瞬、翔平の唇を拒むが、
「淋しい、これからどうしたらいいの?」
加奈自らが唇を求める。翔平は心の内にある、叔母という言葉で封印した加奈を解き放った。
 二人に至福の時が流れる。唇を合わせた二人は互いを引きつけ舌を絡めあう。慰めの言葉などいらない。

 

やがて加奈は受けた衝撃から逃れて夢心地をめぐる。すがりつく加奈から力が抜けて翔平に身体の重みを委ねた。翔平は体の中から突きあげる喜びに、頭の芯がしびれるようだ。
「これが愛というのだろうか?」
 翔平は頭の中が真っ白になって、何も考えられなくなった。
「これはひどい!」
 突如、階下で父の声が聞こえた。同じように、遅れてきた父が、今、着いたらしい。
「翔平、いるか?」
 声と同時に、足音が階段を上って来た。

父が来たと知って、いち早く夢から覚めた翔平は、夢心地からすぐに戻らぬ加奈を抱えて慌てた。部屋を覗いた父は、加奈の表情を一目見て、二人が義理の叔母と甥という間柄に留まらないようだと察したが、形見分けの騒ぎで加奈が受けた衝撃を思いやる父は、何も言わなかった。

二人がいる部屋へ入った父は真っ先に、親戚が行った狼藉を加奈に謝った。その後、ひと部屋ごとの有り様を見て回り、無くなった物を加奈に確かめたが、受けた衝撃があまりにも大きい加奈はすぐに答えられそうになかった。
 父はその日のうちに親戚を回り、加奈の家から無断で持ち去った物を返すように、説いて歩いた。

 
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