嘘だまり

かたみ分け(6)

2017年10月29日
小説・かたみ分け
― 第二章 ―

 四十九日の法要を終えても夫が亡くなったという現実を受け入れられない加奈に、疎遠となった親戚から「形見分けをしろ」という声が、突然、上った。今、加奈の手元に有るものは夫と繋がるものばかり。夫はまだ存生しているのではないか、という儚い望みを絶たれるようで、加奈は何一つとして手放したくなかったが、周りの声に抗しきれず、やむなく夫の形見分けの日を設けることにした。


その日、親戚と称する人たちが、決められた時間の前だというのにすでに何人もやって来た。その人たちは、あらかじめ加奈が用意した品物では「足りない」と言って騒ぎ立て、無断であらゆる所を引っ掻き回し、形見とは無関係な、加奈が大切にしているものまで取り上げた。

夫がいた頃、加奈に丁寧な対応をしていた者までが、豹変したように貪欲な顔つきとなり、中には形見とまったく関係の無い加奈の下着まで覗き込んで、色がどうだ、柄がどうだと下卑た笑い声を立てる者までいた。

親戚と称する人たちは、若い加奈がすぐにも再縁すると決めつけた。その人たちは、僅かの夫婦生活で夫の遺産を受け取るだろう加奈と他人になる前に、形見分けにかこつけてあらゆる物を取り上げ、自分たちの懐へ入れようという浅ましい魂胆が見え透く。そればかりか、「もうこれで加奈と親戚付き合いをすることが無い」という本音を露骨に覗かせる。加奈は否応なしに夫の係累から除かれたという現実を突き付けられた。

加奈は自分の全てがあばかれ、体の隅々まで覗かれるような恥ずかしいさまを、部屋の隅で小さくなって震えて見ているしかなかった。
 親戚と称する人たちはめぼしい物が無くなったと知って、両手に抱えた互いの物を声高く比べあっていたが、ようやく帰った。静かさを取り戻した、物が散乱する部屋で加奈は寂しさと悔しさに耐えきれず、ついに泣き出してしまった。


その形見分け日、翔平が加奈の家に着いた時、時間を聞き違えたのか、誰一人いない。翔平は玄関で声を掛けたが返事はなく、物が散乱した部屋だけが見える。驚いた翔平はすぐに玄関から上がって、いるはずの加奈を探して各部屋を回った。二階の部屋の物が散らばった床にうずくまり、震えて泣く加奈を見つけた翔平は無事な姿に安堵した。
「いったい、何が起きたの?」
「あの人達が……」
 加奈はそう言ったきり嗚咽を繰り返すだけで、後の言葉が続かない。

 
関連記事