嘘だまり

かたみ分け(3)

2017年10月15日
小説・かたみ分け

翔平の返事に安心したのか、加奈は何ごともなかったように話しを進めた。
「家に来るのは久しぶりね」
「そうだな、叔父さんの葬儀の帰りに、立ち寄ったとき以来かな」

翔平は「叔父さんの葬儀」と言った時、僅かに眉根を寄せた。翔平にとっても、辛い思い出に違いない。
「私には長い間、家に寄ってくれなかったような気がする」、加奈は感情の赴くままに言った後で自分の声音が甘えていると気付き、媚びているようだと悔いたが、幸いにも翔平に、気にした様子が見られなかった。

程なく翔平と加奈は広い庭に入り、隔てた車道から届く騒音が途切れて静かな、加奈の住まう家に着いた。何でもこの家は、資産家が姪の結婚に合わせて金を惜しまずに立てたそうで、家の造りはしっかりしている。その姪が事故死したとかで、残された家族は富山の城端という田舎へ越すことになり、持ち主と叔父が直に話をして安く譲ってもらったと聞いている。
「一戸建て、庭付きという条件が良い割に、安い値段で手に入った」と、叔父が自慢したのを、翔平は思い出した。

 

その叔父も、この家に長く住むことなく逝ってしまった。
 叔父が、「この人と一緒になることにした」 そう言って加奈を紹介したのは、庭で一番の存在感を示す、新芽が開き始めたカエデの下。翔平は、加奈の年齢が自分とそう違わないと知って驚き、加奈の清楚な佇まいに、なぜか心が騒いだ。

その一方で、今まで間近だった叔父が、翔平の心も騒がせるほどの女性と一緒になると思えば、叔父が手の届かない所へ行ってしまうように思われて、叔父を横取りする加奈に邪な気持ちを抱いたのも事実。

加奈を引き合わせて、翔平の心が揺れ動くのを見抜いた叔父は、
「私の身に万一ということが有れば、翔平、加奈を頼む!」
などと、冗談ともつかぬ口調で言ったが、加奈も翔平も、それからわずか二年足らずで、叔父の言った言葉が的中するとは思いもよらなかった。なによりも、口にした叔父自身がその時、予想もしていなかっただろう。

叔父は加奈と一緒に住むようになっても、翔平が心配したような、疎遠になることなどまったく無かった。幾度となく、気が合う翔平を家に招き、加奈との会話の中へ、しばしば翔平を引きずり込んだ。三人での話しが盛り上がって気付けば夜中で、そのまま叔父の家に泊りこんだことも何度かある。

最初のうちこそ、夫と二人きりで過ごしたい加奈を戸惑わせたが、その加奈も翔平が泊るたびに違和感を持たなくなったのか、いつの間にか翔平のパジャマを用意するなど、泊まることは暗黙の了解となった。
「叔父と加奈に子供が授からなかったのは自分にも責任がある」と、翔平は今になって悔やんだが、過ぎた時間はもう戻らない。

 
関連記事