嘘だまり

かたみ分け(2)

2017年10月08日
小説・かたみ分け

そのような翔平の事情など知らない加奈は、「この人までも」と思った。夫がいた頃の翔平は、何度も家へ遊びに来ていた。加奈にとって義理の甥にあたる翔平は歩く癖までが夫に似ていて、「翔平は夫の隠し子ではないか?」という悪口さえ耳にしたことがある。

それほどよく似た夫と翔平は、加奈をかせるほど気が合うのか、新婚早々の家に泊っていったことが何度かあり、「翔平の奴、兄貴に、『泊るように誘いがあっても遠慮するものだ』とたしなめられたようだ」と、そのとき夫は加奈に笑いながら打ち明けた。
が、その後の翔平の来訪に変化はなかった。

加奈は翔平だけが心安く話せる相手と気が付き、ひと時でも「淋しさから逃れたい」思いに駆られて翔平を誘ったけれど、気軽に家に来て何の屈託もなく加奈と話をしていた頃と比べて、今はどこかよそよそしい。
「みんな冷たいのね、誰もが私を避けている」

ひとりぼっちだと暗に打ち明ける加奈の姿は、翔平の心に思わぬさざ波を立てた。愁いを含んだ面窶れにしても、叔父が亡くなって幾日も経たないからと慮ったが、加奈の呟きはそればかりではないことを訴えていた。

 

翔平が「淋しい加奈を放って置けない」と思った矢先に、加奈がいままで見せた淋しさと人恋しさをすねた姿で覆い隠し、先ほどと比べものにならないくらいの早足で翔平から遠ざかろうとする。翔平は慌てて加奈の後を追った。

ようやく加奈に追い付き、横並びになった時はすでに、翔平の帰り道から逸れて加奈の家までそう遠くない。

翔平からみると僅かばかり年上になる、加奈の子供のようにすねた姿が微笑ましかった。翔平は思わず口元を綻ばせたが、前を向いたままでいると思った加奈がいつ翔平を見たのか、唐突に歩みを緩めてなじった。
「何がそんなにおかしいの」

加奈は馬鹿にされたと思ったようだ。何と答えていいか分からなくなった翔平は、加奈からそっと視線を外した。それぞれに気まずい思いを抱えて足元を見つめ、押し黙ったまま歩いた。

押し黙ったのはわずかの時間だったが、加奈を冷静にするには十分だった。
――翔平が笑う訳などないのに、どうして小娘のように振舞ってしまったのだろう?。夫によく似た翔平の雰囲気が私を、娘の頃に引き戻すのだろうか……。

男と女の機敏は翔平よりもうわと自負する加奈なのに、手もなく翻弄されている。せっかくの出会いを壊してしまった加奈だったが、離れずに付いて来る翔平を見て、萎んだ期待が再び膨らむのを感じた。
――このままでは、二度と会えなくなるかもしれない。

思い直した加奈は、すぐにすねた表情を改めた。翔平の穏やかな表情を窺ううちに、家に来る口実があればより気軽に立ち寄ることができると考えた。差し迫ってはいないが、修繕の必要な所がある。

「壊れている所があって誰に相談したらいいのか困っているの」

切れた話しの継ぎ穂に困り、そうかといって、気まずいままで別れられない翔平は加奈の話しに素早く反応した。頼る加奈を放って置けない。
「場所はどこ?、どれくらい壊れているの」
「ここで説明するより、見た方が早いと思うの。家に来てくれるよね」
「そうする」

先ほどと違って、気さくに言った翔平は加奈の言葉に素直に従った。

 
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